第6話 新たなる視点
刑務所を抜けた先の道は幾つも蛸足のように伸び、全てが他の場所へと行き着く。これは牢獄を抜け脱走した逃亡者が途中で道を迷い狼狽えるようにする為の工夫。警官や牢獄に携わる者はそれら全ての道筋と行き先を把握し、理解する事で用途によって使い分けをしている。
「街を敢えて避けながら道路へ出たが、奴らの話では元凶が街に在るらしいな。」
無人のスタンドで給油をしつつ、今度の活動を模索する。一度刑務所へ戻って倉庫から武器を調達しようか、直接街へ赴くか。
「まぁどちらにせよ同じ道は通れんな。
..別のルートを探って進むとしよう」
真ん中の道路は現在、車が走行するには随分とコンディションが悪い。
『生きているか、ギラ』「見ての通りだ!」
脚の数が多すぎる。節を加えてまでしっかり地面を踏みたいものか?
「床ボコボコだぞ、帰り道どうすんだよ」
『ドコに帰るつもりなんだ?
友達はもうあの場所にはいないだろう』
「いるだろうがよ、こんな近くに..!!」
脚部や様々な部位によく目を凝らすと、人の顔のようなものや身体を繋ぎ合わせた境い目が見える。彼らは意図して重なったのか、それとも憎悪や憎しみを共鳴させ自然に混じりあったのか。理性なき男にはそこまでを勘繰る発想はなかった。
「こんなでけぇツレはいらねぇな。
並んで歩いても邪魔くせぇだけだしよ」
曲がりなりにも強者のはしくれ、望まなくとも目先の目的の為に様々な狂人を相手にその腕を振るってきた。
「ききぃ..!!」
「喚くなバケモン、何の為にオレがあんな牢獄に閉じ込められたと思う?」
節の脚を越えれば、ぽっかりと空いた隙がある。八本はあくまで地面を安定させる数、大きなカラダは支えるだけで精一杯だ。
『脚が長いと不便だね、羨ましいけど』
「ききぃ..?」
姿が見えないと辺りを見渡すもその筈だ、お友達は脚の隙間を掻い潜り腹の真下にいる。
「くたばれやあぁっ!!」 「ぎっ..‼︎」
食い込んだ腕が肉体を掴んで引き千切り、内側からカラダを壊し崩していく。
『…大胆だね、僕には出来ないやり方だ。』
「そうか?
オレはこの遣り方しかしらねぇな」
子供が悪戯に紙をむしるように、次々と肉を剥がして千切り棄てていく。
「見えねぇな、コイツの〝核〟はどこだ?」
『中心辺りじゃないかな、核なワケだし。』
「ぎぎぃっ!!」
全身に奔る激痛から逃れようと脚を揺らして激しく暴れ回る。滴る多量の赤い血が、汚らわしくアスファルトを濡らしている。
「……だぁウザってぇ!
探しもんしてんだ暴れんじゃねぇクソが!」
体内に突っ込んでいた腕の片方を外し、届く位置にある脚を掴み思いきり引き抜く。
「ぎぎぃっー!!」
「ガキかてめぇは、うるせぇな。」
節から吹き出す血液をものともせず、動きを止めた蜘蛛女の体内を手探りする。
「どんな形してんだ?」
それらしきものはあるが、明確でない。
元は人の構造に寄生している故に体内の臓器は人のそれだと思われるが如何なものか。
『よく見ると異形な形は下半身のみだ、上半身が原型を象っているならば...』
「ききぃ..」 「危ない!」
脚は八本、一本を折られても後七本はある。
仕返しをするには持て余す量だ
「……あぁ?」
その先端は、床を抉る程に鋭く硬い。
ガソリンスタンド
「何か役に立つものがあるかと思ったが、余り期待は出来そうにないな。」
内部の売店では、小さな菓子や燃料程度は売っていても武器となる物は無い。やはり倉庫に戻って調達する他ないのだろうか
「‥おかしな場所だな、従業員はどこだ?
セルフのスタンドにしても顔くらいは見せてもいい筈だ。」
「……」 「なんだ、居るではないか」
売店の奥の扉から中年の男がのそりと現れた
「一人のみか、他に従業員は?」
「……」
返事が無い、ただゆっくりと歩きこちらへ近付いてくる。
「愛想なしか。仕事柄ゆえ嫌われるのはなれているつもりだが、真っ向からの無視というのは中々こたえるものが..」
「……!」
言葉を遮るように、男が覆い被さる。
「なんだ⁉︎」
力がかなり強い。体つきは大きいが、鍛えているようには見えない。
「ききぃ..」 「貴様まさか」
顔を確認すれば、口が裂け瞳孔が開いている。以前相対した警官の群れと同じだ
「見境なしかっ..!」
頭と首を掌で掴み固定し、大きく捻る。
男の首元から、骨の砕ける音が響く
「悪く思うな。
正当防衛にしては程度が過ぎる」
街を超えた先にも、寄生が蔓延している。
それよりも脅威となるのは寄生体の行動だ
「コイツ..明確に私を襲ってきた。
狙いはあの男では無いのか」
ギラを元に寄生を広げている筈の媒体が、他者を純粋に襲う理由。
「…まさか、私が手を出したからか?
本来は奴を殺す筈の存在だからな」
寄生体に触れ、殺めた事で標的として追加された。そうなればギラに加担し復讐の妨げを助けた事になる。
「厄介な話だ、とことんの下衆野郎め。」
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