23-3 淫魔の尋問

 ソリトは、建物の陰に身を隠しながら移動してるところを不意討ちでぶん殴って捕まえたそうだ。

 まだ意識は戻らないが、その間に身ぐるみ剥いで縛り上げたんだとか。


 「しばらく起きらんなくしといた方がいいね」


 レイルが珍しく慎重だな。


 「しばらく、とは? 眠らせる魔法が使えるのか?」


 支部長に聞き返された。まぁ、こういう系の魔法使える奴はあんまいないからな。


 「俺は睡眠の魔法を使えます。

  目的を調べる間、何もできない方がいいでしょう」


 「では、頼む」


 支部長に頼まれて、とりあえず眠らせたが、こいつ、何しにリアンここに来たんだ?


 「荷物の中に、魔法陣が3つあった。

  素直に考えれば、この魔法陣を使って何かするつもりだったということになるな」


 見せられたのは、魔法陣が刻まれた薄い鉄の板が3枚。2つは突起は6つで、その片方は二つ折りになってる。残りの1つは内側だけのものだ。内側の陣はそれぞれ違うから、目的別に使い分けるってこったろう。

 ソリトこいつの登録は剣士だが、俺やレイルみたいに魔法を使えるかもしれねぇから、眠らせといて正解だったな。


 「1つ、内側だけの魔法陣があるだろう。おそらく持っていた魔石で発動させるものだろうから、ソリトこいつは魔法を使えないと思っていいだろう」


 魔石持ってんだから、魔法使えんじゃねぇのか?


 「なんで、そう思うんです?」


 俺の質問に、支部長は魔法陣の板を裏返して見せながら答えた。


 「このとおり、裏に数字が書いてある。

  つまり、こいつは魔法陣を理解していない。おそらく“こういう時は1番の魔法陣を使え”というような指示を受けているのだろう。

  そして、この内側だけの魔法陣は、何かの折に任意発動させるためのもので、こいつには発動させる魔力がないから魔石を渡されたと考えれば辻褄が合う」


 なるほどね。魔力を籠めるだけなら、大抵の魔法士ができる。そう考えれば、魔法を使えないって可能性は高いな。


 「んじゃ、肝腎の魔法陣の役割ですが…わかりませんよねぇ、当然」


 「さすがに使い方指南書を持たせてくれるほど親切ではないようでな」


 とすると、本人の口から説明してもらわにゃならんわけか。

 あいにくそんなことのできる魔法は知らねぇしなぁ。

 考えてたら、レイルが口を挟んできた。


 「方法は思いついたけど、僕らだけじゃできない。

  協力者を連れてこなきゃないけど、詳しいことは話せない。それでもいいなら、やってみるけど」


 おいおい、いったい何やらかす気だよ。


 「協力者が誰か、どうやって口を割らせるのか、教えたくないということか?」


 「そうだね。そういうことになる」


 「口を割らせることができそうか?」


 「保障はしないよ。でも、可能性はある。僕は、これ以外の方法を思いつけない」


 「わかった。協力者というのは、いつ呼べる?」


 支部長の言葉に、レイルは少し考えて


 「たぶん、すぐ連れてこれると思う。まあ、待っててよ」


と言って、ギルドを出て行った。


 なんで今の話を受け入れられんだよ。俺達、そんなに信用あるのか?

 とりあえず、レイルが戻ってくるまでの間に、さっきの魔法陣の逆五角形の中に3つの魔法陣を入れ、結界モドキを作る。

 この魔法陣が何か知らないが、妙なものだと困るからな。こうしときゃ、安全だろう。




 しばらくして、レイルがフードを目深に被った女を連れて戻ってきた。


 「じゃあ、これから試してみる。フォルスは一緒に来て。

  ほかの人は、ここで待っててね」




 レイルと女と、3人でソリトを閉じ込めた部屋に入った。

 見張りは、部屋の外で警戒させてる。


 「んで、レイル、それ、誰だ?」


 「顔見知りの街娼だよ。

  餌が見付からなかった時、たまに使うんだ」


 餌って、要するにナンパに失敗した時か。


 「なんだ、人のこと娼館通いで金使ってどうこうなんて言ってたくせに、自分だって使ってんじゃねぇか」


 「値段がまるで違うよ。それに回数もね。

  とりあえず娼婦こいつを通して、ソリトに暗示を掛けるから、黙って見ててね。

  君には、眠りの魔法を解いたり掛けたりしてもらわなきゃならないんだ」


 なるほどね。それで俺が呼ばれたわけか。要するに、淫魔の力を使うってことか。


 「わかった」


 「んじゃ、こいつの縄解いて。で、合図したら眠りも解いて。

  娼婦あんたは、そこに寝転がってる男を楽しませてやって。僕らが見てるけど、見てるだけで手は出さないから、気にしなくていい」


 レイルの目がうっすら金色になってる。

 女の目が焦点の合わない感じになって、ソリトの上に腰を下ろした。


 「フォルス」


 レイルの合図で、ソリトの眠りを解くと、女の体から、魔力のようなものが出た。レイルが変化を解いて、女の肩に手を置いてるから、レイルから女経由で出てるんだろう。その魔力のようなものがソリトを包む。


 「何しにこの街に来たの?」


 レイルがいつもより高い声──女の声で問い掛ける。


 「フリード支部長に言われて、捜し物だ」


 ソリトが、寝ぼけたような目と声で答える。これが暗示か。


 「捜し物って何?」


 「何かはわからんが、街の中で2番の魔法陣を広げて、光が伸びた方向に行けと言われた」


 「そこに行ってどうするの?」


 「3番の魔法陣に魔石を載せる。

  そうすると、支部長に場所が伝わる。

  それで仕事は終わりだ」


 おい、1番はどうした? と思ったら、レイルが訊いてくれた。


 「1番の魔法陣は、いつ使うの?」


 「門の近くで、目立たない場所に隠すはずだった。

  3日経つと、門が吹き飛ぶ。

  追われたせいで持ってきちまったから、後で門の近くに置きに行くつもりだった。

  3日後までに置けば大丈夫だって言われてる」


 3日掛けて魔素吸って爆発すんのかよ。なんつう危ないもん作ってんだ。


 「あなたは、魔法は使えないよね?」


 「ああ、使えない」


 「支部長は、今どこにいるの?」


 「それは聞いていない。3日間、どこかで隠れてるって話だ」


 「どうして3日なの?」


 「3日で準備が終わるって言ってた」


 「何の準備?」


 「聞いてない」


 「そう、ありがとう。ゆっくり休んで」


 レイルがそういうと、ソリトは目を閉じて、動きを止めた。


 「娼婦あんたもお疲れ様。今聞いた話は忘れてよ」


 姿と口調をいつものに戻したレイルがそう言うと、娼婦はノロノロと立ち上がって服を着始めた。


 「さ、フォルス、ソリトこいつを縛り直してくれる? しばらくは起きないから」


 「すげぇな。これがお前の力なのか」


 「警戒心をなくす程度の効果だけど、今回はちょうどよかったよ。

  精気を吸う時は、本来ああやって誘うんだけど、僕は男から直接は吸わないから、女から吸う時は、僕を旦那か恋人だと思わせるようにして近付くんだ」




 とにかく、魔法陣の使い道もわかったし、フリードの野郎が3日後に姿を現すのもわかった。

 こっちで適当なところで3番の魔法陣を使うと、そこに誘導できるってことだよな。3日しかないのは残念だが、いつ来るかがはっきりわかっただけでも収穫だ。

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