21-2 魔素溜まりから出る魔力

 「6か所全部ハズレですね。

  少なくとも、今は怪しい魔素の流れも魔力も感じません」


 「そうか。

  封印が盤石だからか、そこではないからなのか、難しいところではあるな」


 「試しに、街の外に出て見てみましたが、外から魔力が流れ込んだりもしてません」


 「魔力が流れ込む?」


 「光る魔法陣の作りで言えば、外側で魔素を吸い込んで魔力に変え、内側でそれを受け取って光るって感じです。

  外側と内側の間でどうやって魔力の受け渡しをしてるのかわかりませんが、受け渡ししてること自体は間違いないんで。そこんとこ、もうちょい調べてみた方がいいかもしれませんね」


 「なるほど。

  その辺りは、君の力に頼るしかないな。

  セシリアに言付けてくれれば、どのように動いてもらっても構わない」


 おいおい、ホントにアテにされてんな。

 “見る”力にゃ、それなりの自信もあるが、それ以外は、ここまでアテにされるほどかって言われると自信がないんだが。


 「んじゃ、せっかくなんでもう1つ。

  前に報告した光る魔法陣の仕組みで、線は引かれてないのに魔力が通ってた話って覚えてますか?」


 「円に重なっていた6つの突起が三角形2つになっている、という話だったか」


 どうせ覚えちゃいないと思って話を振ってみたが、支部長はきっちり覚えてた。大したもんだ。


 「5か所の魔素溜まりの間にも、そういう見えない線があるかもしれないんで、見に行こうかと」


 「そうしてくれるとありがたい。

  とにかく、今は色々試してみるしかない状態だ。

  街の外に封印があるかどうかについても、今、文献を調べさせている。

  君達の方で思いついたことがあれば、どんどん試してほしい。

  ああ、一応、事前に連絡はくれよ。いきなり行方不明は困るのでな」


 支部長は冗談めかして言ってるが、要するに知らないうちにアタリを引いて敵と交戦中、とかって話にならないようにってことなんだろう。

 勝って報告に来れりゃいいが、負けちまえば、何がアタリだったかもわからないからな。

 このおっさん、斥候だったんだっけ? さすがに用心深いな。


 「ああ、それと、一応、魔力の流れは全方向で見るようにしてくれ」


 「どういう意味です?」


 「6つの突起が隣同士ではなく1つ置いた先の突起と繋がっていたように、5つの魔素溜まりも、隣とではなく1つ置きや、全く別の外側の何かと繋がっている可能性もある。

  せっかく行くんだから、色々試してみてくれ」


 「わかりました」


 なるほど、三角形が2つってんじゃなくて、1つ置いて隣と繋がってるって見方もあんのか。

 とにかく、見に行くか。


 「流れが見やすそうなのは、魔狼の森か、牙猪の森かな」


 「あとは洞窟だからね」


 「明日、出発します」


 「よろしく頼む」





 どのみち日帰りは無理だが、ちょいと早めに歩いて翌々日朝には魔狼の森の魔素溜まりに着いた。

 魔素溜まりから少し離れて、魔素の流れを感じてみる。

 魔素溜まりに魔素が吸われてるが、外には出てない。吸われてる魔素が、前より少し多い気がするな。気のせいか?


 「なんか、吸ってる量が多くなってる気がする」


 「そお? 僕にはわからないけど」


 レイルには感じられない程度の差か。なら、どっちにしても問題ないな。

 次は、魔力だ。

 何も感じない。魔力は動いてない。


 「魔力はないな。

  ちょっと期待してたんだがなぁ」


 「せっかく来たんだから、もうちょっと見ていこうよ。向き変えてみるとかさ」


 「そうだな」


 魔素溜まりを迂回しようとした時、みゃあがレイルの腕から飛び出した。


 「みゃあ!?」


 レイルが追い掛けようとしたその時、魔素溜まりから魔力の光が飛んで、みゃあの体を貫いた。

 …いや、貫いたっていうか、跳ねたみゃあがまるで自分から当たりに行ったみたいだ。

 みゃあの体を貫いた光は、そのまま飛んでいき、今度は背後から魔力の気配が!

 振り返ると、後ろから魔力の光が飛んできて、俺達の脇を掠めるように魔素溜まりに当たった。

 今は、最初に出た方の光は消えてる。まるで、魔素溜まりから出てった魔力の光が別のとこから戻ってきたみたいだ。

 出てった方と入ってきた方、2つの線の間はかなり狭い。支部長が言ってたみたいに、1つ置いて隣ってやつか?

 みゃあは、と見ると、入ってきた方の光にも触りに行ってやがる。

 これなら、怪我とかはなさそうだな。

 少しして、魔力の光は消えた。


 「レイル、今のわかったか?」


 「弱い魔力がここを走ってたよね。2つあった?」


 レイルが感じただけってことは、そんなに強い魔力じゃないってことか。


 「南西こっちへ行ったのと、南東こっちから来たのと、2本だ。

  純粋な魔力だったみたいだ」


 「それってどこに向かってた?」


 支部長から貰った地図を出して、指でなぞる。

 「出てった方は、牙猪の森、来た方は魔法陣の洞窟ってとこだな。

  こいつは、支部長の予想が当たりか?」


 「じゃあ、ほかの魔素溜まりとこも同じかな?」


 「多分そうだろうな。ほかも見てくか?」


 「ん~、もし、他からも出てれば、ここんとこを通るのがあるはずだよ」


 レイルは、岩の巨人の洞窟と一ツ目の洞窟の間をなぞった。


 「なるほど、ここなら、帰りに通るな。

  あとは、どんくらいの頻度でこれが起きるかだ。

  しばらくここにいなきゃならんな」


 「そうだね」


 「ま、今度は魔力を感じるまでは休んでられるから楽だな。

  で、みゃあは大丈夫か? ヤバそうな魔力じゃなかったとは思うが」


 「元気だし、大丈夫なんじゃない?

  それにしても、今回もお手柄だったね」


 「そいつ、魔力の類に敏感だよな。俺より。

  なんでだろうな」


 「フォルスが魔力見えるのも、なんでだろうね」


 「あ?」


 「自分でもなんでだかわからないけど、できることってあるよね。そういうことなんじゃない?」


 つまり、体質とかそういうことか。

 まぁ、猫になんでだって訊いて、答えが返ってくるとも思わねぇけどよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る