13-2 岩の巨人

 翌朝、いつにも増して元気いっぱいなレイルと共に、これもご機嫌なセシリアに見送られて家を出た。


 「無事のお帰りをお待ちしています」


 「おう。行ってくる」


 なんか心配してない感じだな。まぁ、今更引き留められても困るんだが、これはこれで、なんか面白くない。…ん? なんで面白くないんだ? 心配してほしいのか、俺は。

 なんてことをグダグダ考えてたせいだろう、レイルに釘を刺された。


 「なんて顔してんのさ。

  色ボケすんのは、仕事が終わってからにしてよね」


 色ボケ? おいおい、そんなわけないだろう。


 「なんで俺が色ボケなんだよ」


 「気付いてないの? あいつがあっさり送り出したのが面白くないって顔してるよ」


 なんでわかるんだよ。


 「んなわけあるか。

  いいから、行くぞ」


 「いいけど、ミスんないでよね」


 誰が色ボケだ! とは思ったが、ちょっと気が抜けてたのは確かなんで、文句を言うのはやめといた。


 「わ~ってる」


 「んじゃ、さっさと行こうか。

  君がセシリア恋しくならないうちに片を付けられるようにね」


 そこまでからかうかよ、とも思ったが、レイルの奴は本当にいつもよりも速く歩いていた。

 実は、早く帰って会いたい相手がいるのは、レイルの方だったりしてな。そういや、朝から機嫌がよかったし。




 おかしい。本当に何があった? レイルの奴、妙に急いでるな。もう目的地は目の前じゃないか。


 「レイル、どうした。なんでこんなに急いでる?」


 どうにもおかしいので、声を掛けることにすると、


 「なんか、急いだ方がいいと思うんだ。

  この距離なら、日が落ちる前に一戦やれるかと思ってさ」


 正直、答えを期待してたわけじゃなかったが、レイルは答えらしきものを口にした。だが、今日中に当たっておきたいという理由がよくわからない。


 「なんで今日中なんだ?」


 「今日の僕は調子がいいからさ!

  相手がどんな奴かわからないと作戦も立てられないし、今のうちに一当たりしておいて、それからやり方を考えるのもいいかなって」


 調子がいいってのがどういう意味かはよくわからんが、戦う本人がそうしたいってんなら、その方がいいかもしれんな。たとえ気分だけだったとしても、気力が充実していると、その分力を発揮できる。


 「わかった。

  だが、巨人が何体いるのかもわからないし、下手すりゃお前の剣では斬れないほど太い可能性もある。

  無理は禁物だぞ」


 一応釘を刺すと、

 「オーガくらいならともかく、その倍くらいになると、一編に斬るのは無理だね。

  そんなにでかいなら、近付くまでもなくわかるだろうけど」

と笑った。まぁ、冷静でいられるのなら、それでいいか。


 「よし、そんじゃ索敵しながら進むぞ」


 「そっちは任せたからね」


 いつもどおり、全方位で索敵しながら、そこそこの速さで進む。

 巨人というからには、獣のわけがないから、魔物に絞って索敵だ。




 しばらく進むと、妙な魔素の動きを感じた。

 何かが動いたことによる魔素の動きとは違う。

 ほんの僅かだが、魔素を吸い込んだり出したり…魔獣とも違う。

 魔獣は、魔法を使う時に魔素を吸い込むが、吐き出したりはしない。

 魔法を使えば、少し経ってから魔素が増えるが、使ってすぐ魔素に戻るわけじゃない。


 「ん~、妙だ」


 足を止め、疑問を口に出した。

 レイルの知恵を借りよう。


 「何が妙なのさ?」


 「この先に、妙な魔素の動きを感じる。

  魔素が何かに吸い込まれて、また出てくるんだ。

  吸い込むだけならわかるが、吐き出すっておかしいだろ」


 レイルは、少し考えて口を開いた。


 「魔法を使ってるわけじゃないんだね?

  まるで魔素で呼吸してるみたいだね」


 魔素で呼吸? 面白い発想だが、ちょっと違う。


 「言い方が悪かった。

  吸ったり吐いたりじゃなく、吸いながら吐いてるっていうか…。同じ奴だと思うんだが、吸いっぱなし、吐きっぱなしって感じだな。

  吸ってる方が多いのか? よくわからんが。

  なにしろ、そいつの周囲をずっと魔素が出入りしてるから、大きさとかはさっぱりだ。

  人よりちょい遅いくらいで歩いてるんだと思うが、細かいことはやっぱりわからんな」


 「吸いながら吐いてんの?

  それ、本当に1匹? 実は2匹いたりしない?」


 吸うだけの奴と、吐くだけの奴がくっついて動いてるってか。


 「…ありえん話じゃないな。背中に乗っけてるとか抱き上げて歩いてるとか。

  そうなら、歩くのが遅い理由になりそうだ」


 「どれくらい離れてる?」


 「少し歩けば見えるかなってくらいだ。

  せっかくだから、見ておくか」


 「うん」


 索敵範囲を絞る代わりに不可視の結界と周囲の魔素を固定する結界を張って進む。

 見えた…けど、なんだ、ありゃ?

 目の前にいたのは、人の形をした岩の塊だった。

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