8-4 一応の終幕
白インクで魔法陣を塗りつぶしたものの、うっすらと線の存在はわかるから、移動の間にギルドの連中に書き写させておいた。
ギルドに戻り、支部長とセシリアの前で、魔法陣を封じた方法の説明をすると、インクで塗りつぶして魔法陣を無効にするという方法はかなり斬新だったようで、随分感心された。
「なるほど、こういう方法があったのか」
「折ると効力がなくなる、ということは、書いてある紋様がきちんと
白く塗りつぶしたら、何も書いてないのと同じことになるかと思いましてね」
「面白い発想だな」
「今は、魔素を吸っている様子はありませんが、魔法士の類が触れたらどうなるかわかりません。
少なくとも俺は触りたくありません。
インクですから、水で洗い流せば、かなり落とせるでしょう。
現物を調べるのが一番いいでしょうが、危険度も跳ね上がります。
きっちり管理しないと、この建物から職員が魔物になって出てくるなんてことにもなりかねません」
俺から言えるのは、ここまでだろう。
俺はギルドの職員じゃないし、ああしろこうしろ言えるような立場じゃないからな。
魔法士もどきの死体の方は、解体場に運ばれたらしい。
そっちも、別に解体を見たいわけじゃないから、後で結果だけ教えてもらう約束をして、ギルドを後にした。
「さて、と。そんじゃ浴場に行くか」
翌日、ギルドから呼び出しがあった。随分早いな。
行ってみると、また支部長のところに連れて行かれた。例によってセシリアも一緒だ。
「例の魔物だが、解体したところ、ノインのギルド手帳が懐に入っていた。やはりノインの死体がなんらかの理由で魔物になったものと考えるべきだろう。
お前達が事前に焼いた部分が欠損していることも傍証になる。
随分と肉が削げているが、その理由まではわからん。
いずれにしろ、胸に魔石があった以上、あれは魔物だ。
人の死体があんなに早く魔物になるなど聞いたことがないが、現実にあったのだから認めざるを得ん。
これが、おそらくは魔法陣の効力なのだと思われるが、どういう仕組みかは、ここで調べるのは難しいし危険だ。
前に言った魔法陣を研究している場所に送ることにした。
お前達の見解も、参考として送っておく。
お前達が自分で書き写したものを調べるのは構わんが、少なくとも洞窟の魔法陣の方は絶対に街中で発動させるなよ。
問題が起きれば、お前達を処罰しないわけにはいかなくなるぞ」
「調べるのは構わないと?」
「お前達の視点は、独特で、有用だ。
禁じるより、釘を刺した上で好きにやらせた方がいいだろう」
「何もしないかもしれませんよ」
「それならそれでもいい。少なくとも問題は起きない」
さすがというべきなのか、冒険者は強制するより好きにさせといた方が扱いやすいことをわかってるんだろうな。
さて、と。
つい一昨日まで休んでたわけだが、今回のことを整理する意味でも、もう少しブラブラしてようかな。
「レイル、今回はあっさり片付いたが、また2~3日休まないか?」
レイルに水を向けると、面倒臭そうな顔で返事をしてきた。
「まあ、仕事が終わったから、恒例といえば恒例だよね。
妙にあっさり終わったから、ちょっとすっきりしないなあ。特に、僕、何もしてないからね」
まぁ、そうなんだけどな。
「俺としちゃ、魔法陣眺めるのに、街の外に出ようかと思ってんだが、お前も来るか?」
「今から? それとも明日?」
「明日。さすがに、もう日も暮れるのに外に出たいとは思わねぇよ」
「街の外って、やっぱり何か起きると思ってるんだ?」
「あの魔法士の死体が魔物に変わったのは、間違いなく魔法陣の力だ。
ギルドで試した時に何も起きなかった理由も気になるし、放っておくのもなんか落ち着かないしな。
多少のことは試しておきたいが、宿ん中でやって下手なことになるとまずいからな。
ペンと紙持って街の外で何すんだって気もするけどな、色々試して、ヤバそうなら今回みたいにインクぶっかけて、だな」
「まあ、やることもないし、付き合ったげるよ。昼間だけは」
「だから、夜までわざわざ外で何かしようとは思わねぇよ。
どこぞの姉ちゃんのとこにでも勝手にしけ込んでくれ」
「妬かない妬かない。いつか君の前にも物好きが現れるよ」
「慰めてんのか、けなしてんのか、どっちだ」
とりあえず、色々試してみるとするか。
次回予告
魔法陣の秘密は、その紋様にある。
フォルスの目は、その秘密に迫れるのか。
次回「ごつひょろ」9話「見えない魔法陣」
目に見えるものが全てではない。
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