第8話 優希の初戦闘

 「さて、今度は実際に戦ってもらおうかのぉ。」


 そして、ついに優希の魔物との初戦闘が始まる。

 じいちゃんは優希に槍を渡すと、彼と戦闘するスライムを探し始めた。すると、少し先の部屋から水音がするのが聞こえた。スライムだ。


 「優希君は、槍を使ったことはないじゃろう。だから、相手を突いて戻すという動作を繰り返すようにして戦ってみなさい。危険があれば、すぐに手を出すから安心してよいぞ。」


 「戦うの初めてだからね。スライムの水球は僕が魔法で妨害するから気にしなくて良いよ。」


 想像以上に至れり尽せりなんだが。俺のときとはえらい違いである。この差は何だろうか。


 「ずいぶんと助けるんだね?」


 「こういうのは、最初が肝心じゃからな。お主も望むなら補助するが、別にいらんじゃろ?」


 「まぁね。」


 いるか、いらないかで言ったらいらないが文句の1つは言いたくなる。

 そうしていると優希の準備が整った。スライムが待つ部屋へと入る。すると、スライムはこちらに気がついたのか襲いかかってきた。といってもそのスピードはかなりゆっくりだが。


 「さぁ、まずは深呼吸して。相手に集中しなさい。」


 じいちゃんに声をかけられた優希は頷き、ゆっくり深呼吸をする。2度3度深呼吸すると覚悟を決めたのか、スライムに近づき、槍を突き刺した。スライムに攻撃が当たったことに安心したのか、優希は思わず固まってしまった。


 「動きを止めるな‼︎」


 じいちゃんの指示を聞いて、優希は反射的に後ろにとんだ。


 「戦いは槍を刺して終わりじゃない。ダンジョンを出るその瞬間まで油断するんじゃないぞ。」


 「はい!!」


 この後、優希は危なげなくスライムを攻撃して倒すことができた。攻撃されたスライムも水球で反撃しようとしたが、全て山田さんの魔法によって防がれた。やはり過保護過ぎると思うのは気のせいか?

 まぁ、それでも優希が初めて魔物を討伐できて良かった。


 「優希、スライム討伐おめでとう。」


 「あぁ、真一。ありがとう。」


 優希はあっけなく倒せたことに少し呆然としたようで気のない返事をする。


 「それでレベル上がったか?」


 「あぁ、レベルは上がったよ。ステータスとスキルも手に入れた。」


 「そうか、それは良いことじゃな。最悪、真一だけが特殊で皆がステータスが得られない可能性もあったからのぉ。」


 「まぁ、優希は後ろで休んでおれ。それじゃ、次は真一じゃの。危険なときしか手は貸さないから1人で頑張りなさい。」


 優希のステータスやスキルが気になるが、やっと俺の番がきた。久しぶり2度目の魔物との戦闘に胸を躍らせる。はやる気持ちを抑えつつ、俺は優希から槍を渡してもらう。そして早速魔物を探して歩き出した。


 しばらくダンジョンの中を歩いていると、奥の方から獣の唸り声が聞こえた。


 近くに何がいる‼︎


 そう感じた次の瞬間、目の前に広がる暗闇から狼の魔物が飛び出してきた。


 「うわっ⁉︎」


 全く危ないところだった。あともう少しで押し倒されて、一方的に攻撃されるところだった。俺はぎりぎりのところで狼の飛びかかりをかわした。


 「速いな。とりあえず今は攻撃のタイミングを探らないと。」


 狼は、爪や牙、体を使った体当たりとさまざまな攻撃を繰り出してきた。それを俺はぎりぎりかわし続ける。だんだん相手動きに慣れてきたが、反撃のタイミングが見つからない。狼は俺との距離を詰めるのがとても速い。そのため、槍の間合いのさらに内側に入ってきて攻撃ができない。


 「くそ!槍が使いづらい。」


 「真一、こういうときはナイフを使え。」


 見るに見かねたじいちゃんが俺にアドバイスをする。

 確かにその通りだ。別に槍で攻撃することに拘るこだわる必要はない。

 俺は狼に槍を投げつけ、腰につけたナイフを抜いた。

 狼が槍を避けている間に、かるくナイフを数回素振りをする。

 これなら、相手に接近されても攻撃ができる。


 反撃するタイミングは、飛びかかるように爪で攻撃したとき。それまでは敵の攻撃を必死にかわし続け、そのタイミングがくるのを待った。


 「今だ。」


 ついにチャンスがきた。絶対に逃さない。

 狼の爪をしっかりとかわすと、右手に持つナイフを全力で振った。しかしナイフの切れ味が悪く、皮を浅く切っただけだった。でも、攻撃を当てることはできた。後は繰り返すだけだ。でも、話しはそう簡単にいかない。


 狼は体に傷をつけられたことで怒り、さらに激しく攻撃してきた。また、真一は回避に専念することになった。狼の捨て身の攻撃に襲われて、ついに俺は避けきれずに攻撃を受けることになった。


 ただ幸いなことに左手を盾にしたおかげで、右手は無事だった。良かった、まだナイフは振れる。左手は軽く爪で切られて傷からは血が流れている。出血はそこまでじゃない。傷は痛むがまだ戦える。そんなとき、視界の端でじいちゃんが助けに動こうしているのが見えた。


 「大丈夫!俺に任せて!」


 とっさに俺は叫んだ。手助けはいらない。俺だけの力で倒す。覚悟を決めた俺は、暴れる狼に再度攻撃することを決めた。先程と同じタイミング、相手が空中にいて回避できないその瞬間は待った。


 そしてついに時はきた‼︎この一撃で決める‼︎

 俺はナイフを狼の首に深く突き刺した。前の攻撃は、腕を振ったから上手く力が加えられなかった。なら今度は、突き刺して力が全て狼に向かうようにした。


 「これで終わりだ。」


 結果はすぐに出た。

 そう、俺は勝利した。

 狼はやがて魔石を残し、光を放って消えていった。

 

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