第7話 本格的なダンジョン探索

 卒業式という感動的なイベントは、あっさりと終わった。今の真一にとっては、卒業式よりダンジョンが優先である。ようやく、ダンジョンを探索できる。


 「今日はついに、ダンジョン探索だ。」


 朝起きると、俺は意気揚々と日課のランニングに出かけた。前回は、不安しか感じなかったダンジョン探索であったが、今回は不思議とワクワクしていた。


 家に帰る途中の道で、大きなカバンを持った優希を見つけた。俺は、後ろから声をかける。


 「優希、おはよう。それにしても、来るの早過ぎない?」


 今の時刻は、7時を過ぎたばかりである。真一は、優希が来るのは早くても8時だと思っていただけに驚いた。


 「おはよう、真一。今日は、ついにダンジョンに潜る日だからね。君は2度目だから問題ないだろうけど、僕は初めてだからね。いろいろ不安になって、じっとしていられなくてね。一応、昨日の昼に君のおじいさんに朝早く行っても良いか電話して許可を得ているよ。」


 「まぁ、君のおじいさんは僕が電話してくるのが分かっていたみたいで、優希君にしては遅かったなって言われたけどね。」


 「そうだったんだ。じいちゃんが知ってるなら別に良いか。まぁ、でもそうだよなぁ。優希は初めて魔物と戦うんだもんな。じっとしてられないのも当たり前か。」


 俺は、隣を歩く優希の姿をチラリと見た。

 優希は、ワクワクしているというよりずいぶん緊張している様子だった。見た目では余裕があるように見えるが、普段の調子が全く出ていない。 


 そこで俺は優希に今日の予定を伝えながら、元気付ける方法はないか考えてみた。


 「えっと。まぁ。俺でもできたんだから、優希にもできるよ。それに、じいちゃんと山田さんの2人のサポートもあるんだよ。そう考えたら俺のときより楽勝だろ?」


 「相変わらず、励まし方がヘタクソだね。まぁ、でもありがとう。僕が想像以上に緊張しているのを見て、少しでも何とかしようしてくれたんでしょ?」


 「バレてたか。」


 「むしろ、分かりやす過ぎるよ。」


 良かった。少しはいつもの調子を取り戻したようである。やっと落ち着いたとのか、他愛もない話しをしながら足を進めた。そして、ついに俺の家に着いたのだった。


 家に入る2人をじいちゃんが出迎えた。じいちゃんは少し心配していた様子だったが、いつもの調子の優希を見て少し笑った。


 どうやら、ランニング中の俺が優希と合流したのは、偶然ではなくじいちゃんが昨日の電話で時間を指定することで調整していたようだった。そして、合流した俺が緊張した優希を励ますことを分かっていての行動だろう。


 その後、まだ朝食を食べていないという優希と3人で朝食をとると、ダンジョンに入る前の最後の調整に入った。動きやすい服装に着替えて、庭のダンジョンの前に行く。


 するとそこには、白のコートを身につけた山田さんがすでに待っていた。


 「おはよう、真一君、優希君。今日はよろしくね。」


 「おはよう、山田さん。」


 「おはようございます。お久しぶりですね、山田さん。今日はお世話になります。」


 挨拶もそこそこに、山田さんがダンジョンに入る前の最後の説明に入る。


 「さて、今日はまずダンジョンでの注意事項を実際に見てもらいながら学んでもらう。次に僕らが魔物と戦うのを見学してもらう。いきなり、素人さんに戦わせても良いことはないからね。」


 「最後には実際に魔物と戦ってもらう。もちろん、僕たちがサポートするから安心してね。その後の予定は、君たちの様子を見て決めさせてもらうよ。」


 「はい、よろしくお願いします。」


 「ダンジョン に入るのが2度目の真一も勝手に行動するんじゃないぞ。」


 「大丈夫だよ、じいちゃん。魔物の危険性はよく分かってるよ。」


 俺の返事にじいちゃんは少しため息をついたが、それ以上何も言わなかった。

 山田さんの指示で俺たちように用意された鞄をもつ。


 「おっ、以外と軽いな。」


 「この世界はあちらと違ってキャンプ用品が充実しているからね。まぁ、あちらの世界ではマジックバックっていうどんなに物を入れても重さが変わらない袋があるから問題ないけどね。」


 「その袋、じいちゃんたちも持ってるの?」


 「おう、1人1個ずつな。」


 「今回は、あくまでもダンジョン に慣れることが目的だから袋にしまわずに背負ってもらうよ。」


 「分かりました。」


 みんなが鞄を背負い始める。全員の準備が終わったことを確認したところで、


 「問題なさそうだね。じゃあ、これからダンジョン に入ります。」


 そういうと僕たちは、ダンジョンヘと入っていった。中に入ると、前回同様洞窟のような薄暗く、静かな環境が出迎えてくる。


 でも、真一は何故か不気味さより慣れ親しんだ場所にきたかのように感じた。前回は、じいちゃんが心配で先を急いだが、今日はゆっくり観察できる。こうして見ていると、自分の視野がいかに狭くなっていたかが分かる。


 「全員来たね。では説明するよ。ダンジョンの中は、魔法を使用するのに必要な魔力が満ちているんだ。そのため、初めて高濃度の魔力と接した人は気分が悪くなるそうだ。」


 「そうなの?」


 すると、山田さんは呆れたような顔をした。


 「真一君。ダンジョンにこれて嬉しいのは分かるが、君の親友のことを少しは見てみたらどうだい?」


 振り向くとそこには、顔を青くして体調が悪そうな優希がいた。現在、じいちゃんが優希の背中を撫でている。


 「おい、優希‼︎大丈夫か⁉︎」


 「心配しなくて大丈夫だよ。時期に良くなるさ。」


 俺の声に、山田さんが答えた。その後、しばらくするとその言葉の通り優希の顔色はすぐに元に戻った。しかし、まだ動けそうにない。


 「真一は良く平気でいられるね?」


 「いや、俺は1度目のとき何ともなかったけど?」


 「それは、おそらくお主のスキル[適応]が原因じゃろうな。魔力が存在する環境に慣れたのであろう。」


 「あれでも、俺寒さとか感じてるけどなんで?」


 「それは、地上に魔力がないからだよ。スキルは魔力がある場所でないと使用できないからね。」


 そうなのか。でもあれ?


 「そういえば、山田さんってダンジョンに結界張ってたよね。あれはスキルじゃないの⁇」


 あの結界は、ダンジョンの外に張られている。つまり、外でも何とかしてスキルが使用できるのか?


 「いや、あれは体内に存在する魔力を使って結界を張ったんだ。ただ、減った体内の魔力は、ダンジョンの中に入らないと回復しないけどね。」


 「それにあの結界の維持にかかる魔力はダンジョンから漏れ出ている魔力を使用しているから、結界を張ってしまえば僕は何もする必要がなくて助かってるよ。」


 そうして、話していると優希の様子が元に戻った。


 「ご迷惑をお掛けしました。」


 「別に良いよ。でも優希君、君はもしかしたら僕に並ぶレベルの魔法使いになれるかもしれないよ。」


 優希が山田さんに並ぶ魔法使いになれる⁇⁇

 どういうこと?


 「それは、どういうことですか?」


 優希の疑問に山田さんが答える。


 「ダンジョンに入る際、高濃度の魔力に体が耐えきれずに体調を崩すわけなんだが、それは体内に魔力が吸収されるためであると考えられている。」


 「通常ならすぐに良くなる訳だが、君は長時間体調を崩していたからね。つまり、それだけ体内に入る魔力の量が多いということだ。魔力量は、魔法使いにとって大事な素養だからね。訓練次第では、僕と並ぶ魔法使いになることだってできるよ。」


 「どうする?僕の指導を受けてみるつもりはあるかい?」


 優希はしばらく考えていた。しかし最後には、


 「よろしくお願いします。」


 こうして、優希は魔法使いの道に進むことになった。


 「優希は魔法使いかぁ。良いなぁ。」


 「真一、お主はわしがみっちり教えてやるから安心せい。」


 どう安心すれば良いのだろう。俺は、魔法という未知の力を学べる優希が羨ましかった。まぁ、でも俺とチームを組む優希が後衛、俺が前衛でバランスがとれててよかった。最悪脳筋パーティーになるところだった。


 「ダンジョンの説明に戻るよ。ダンジョンには罠が存在する。ダンジョンの浅い階層に罠があることはないけど、深い階層に行けば行くほど罠が多くなるよ。覚えておいてね。」


 「それじゃ、話しを聞いてるだけだと飽きると思うから早速魔物との戦闘をみてもらおうか。」


 山田さんはそう言うと、じいちゃんと指導役を交代した。


 「まずは、わしの戦闘を見て自分ならどうするか考えなさい。」


 それからじいちゃんは、スライム、ゴブリン、狼との戦闘を見せてくれた。僕たちによく考えさせるためであろう、基礎的な技だけを使ってくれた。


 こうしてみると、槍を使った戦闘の利点と欠点が見えてきた。利点は、相手に近づくことなく攻撃できることである。そして欠点は、狭いダンジョンの通路では振り回しにくいことである。


 しばらく、じいちゃんの戦闘を3人で見ていた。


 「さて、今度は実際に戦ってもらおうかのぉ。」


 そして、ついに優希の魔物との初戦闘が始まる。

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