第4話 劇的ビフォーアフター
気がつくといつの間にか床の上にうつ伏せで寝た状態だった。
どうやら気を失っていたらしい。
原因は一つしかない。
美形スキルをオンにしたから。それ以外で気を失うような可能性は何一つなかった。
問題は何故に美形スキルの時だけ気を失ったのかだ。が、それも考えられる理由は一つ。
おそらく過去改変を行い容姿を再形成するのに意識がある状態のままでは何かと不都合があったのだろう。
自分の容姿は特別整っているというわけではなかったので、かなりの割合で容姿を弄る……もとい整えられたことだろう。それを意識のある状態で感じたいとは思わないので、むしろありがたい配慮だ。
早速、美形スキルの効果を確認してみよう。
過去も改変されるというわけだったので、鏡で今の自分を見るよりも先に事前に用意しておいた手元にある卒業アルバムの個人写真に写る自分を見てみる。
すると、なんということでしょう。
春川陽という名の人物の写真部分には控えめに言ってもイケメンと呼べる美男子が写っていました。というか俺だった。まさに劇的ビフォーアフター。整形なんてレベルじゃねえぞってほどの変わりようだ。
疑っていたわけではないが、まさか本当にスキルという不思議な力が過去まで改変してしまうなんて。恐るべし、スーパーレア。
「てか、マジでイケメンだな俺」
ドラマとかで見るトップクラスのイケメン俳優に勝るとも劣らない美形。
これが自分だとは正直信じられない気持ちでいっぱいだ。
過去改変がなければ、どんだけ整形に金使ったんだよとつっこまれてもおかしくないどころか、つっこまれないとおかしいくらいに顔面が変形しているというか、ここまでくると整形では辿り着けない領域にまで達している。
こうなってくると今の自分の容姿も確認したい。
二年前の俺と比べて多少は成長して変わっているだろうから洗面所で現在の容姿を確認する。
そうして鏡の前に立つと、そこに映っていたは、先程のアルバム写真の時よりも少しだけ大人びたイケメンの姿。
無造作に伸びた髪の毛が残念ではあるが、それでも容姿が整いすぎているためか、イケメンフェイスは健在だ。イケメンはどんな髪型でもイケメンとは嘘ではなかった。
肌質はきめ細やかで美白になっているし、ボサボサに伸びている髪もキューティクル満点で艶々している。
これで髪型を整えたら一体どれほどのイケメンになるだろうか。
「美容室に行くか……」
折角イケメンになったのだから、この髪も整えて完璧なイケメンになっておくべきだ。
早速近くの美容室を調べよう。
そこでスマホの時間を見てみると既に時間は夜の十一時を回っていた。
約六時間も気を失っていたのか。この時間に空いてる美容室なんてないだろう。
それだけ整える時間が必要だったのかもしれないが、それは逆説的に考えると俺の容姿がとんでもなく整っていなかったという事実が発覚してしまうので、忘れることにする。ここまで考えてしまった時点で手遅れ感は否めないが、忘れるったら忘れるのだ。
「よし、忘れる為にも今日は一旦寝るか」
床の上で寝てしまっていたため、荷物の片付けで疲れた身体はまったくもって休めていない。
この時間に飯を作って食う気もおきないし、いつもより早めに寝て明日朝早くから行動することに決めた。
今からお湯を張るのは面倒なのでシャワーを済ませ、髪を乾かしたり歯磨きをしたりすると、なんだかんだで時間は十二時近くになっていた。
仕事がない日は基本的に深夜三時くらいまで起きているから、今から寝ればいつもよりかなり早く起きられるだろう。
今日は俺の人生を大きく変えた日だった。
引っ越しをしたことが霞んでしまうくらいの出来事。
ガチャとの出会いは、絶対にこれからの俺の生き方を大きく変化させるものだ。
出会っていなければ、明日まで引っ越しの片付けは伸び、その後の人生も浮き沈みのない平凡とした、派遣アルバイトの日々が続いたはずである。
だが、ガチャと出会い、アイテムとスキルを得てそんな人生を歩む必要はなくなった。
派遣のバイトなので責任なんかも特になければ、引き継ぎ事項なんかももちろんない。
九月からのシフトはまだ決まっていないだろうし、八月いっぱいをもってバイト生活を終え、ガチャ生活に移ることにしよう。
本当はもう一日も働きたくないところだが、流石にばっくれるのは心が痛むので明後日はしっかりと働く。
派遣のアルバイトなんだし、俺の代わりなんていくらでもいるだろうが、前日に急にやめるのは迷惑だからな。
でも一応九月からはバイト入れないと明日の朝に連絡を入れておこう。
勝手に来週のシフトをぶち込まれる可能性もゼロではないからな。
明日は休みなので俺の仕事納めは明後日の八月三十一日ということになる。
なんだかんだで、二年間続けた人材派遣のアルバイト。
いざ辞めるとなるとなんだか感慨深く……ならないな。
別に思い入れなんてない。辞めれるならもっと早く辞めていた。
むしろ辞めれることに対して喜びしかない。
そう考えると、残る一日の仕事が本気でダルくなってきた。
やめよう。せっかくいい気分で寝ようと思っていたのに、これ以上仕事のことを考えていたらどんどん憂鬱になる。
明日は宝くじ買って、美容室で髪整えて、スマホタップしまくってガチャをたくさん引く。
よし、楽しいことを考えて気分を上げたところで、一日を終えよう。
おやすみなさい、自分。
結局この後気分を上げ過ぎて逆に寝つくのに時間がかかるのだった。
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