第73話
地下の牢屋に入れられて暫くが経った。物音一つない場所で薄暗い中、何でこんなことになってしまったんだろうって考えて見たけど、いくつか不審な点が思いあたった。
衛兵達は僕が提示した推薦状を見てその印章の印がゴーティの物だと認識したにも関わらず僕を多分独断で拘束した。
普通に考えればその書状が本物だと分かったのであればゴーティ本人迄とは行かなくても騎士団の誰かだったりに報告して確認しないのだろうか?
衛兵は平民の子供が騎士団に推薦される事はあり得ないって感じだったけど、逆に言えば平民の子供が推薦状を持って来たって言うのは印象的な事だと思うから、僕が推薦をされた本人かどうかは別として、確認すれば直ぐにその真偽は分かると思う。
頭ごなしに否定され続けた事に違和感があった。それに推薦状自体は本物だと分かった時点で、万が一僕が言っている事が本当の事だったらって思わなかったのだろうか。
僕の言ってる事が事実で、ゴーティから推薦された僕にぞんざいな扱いをすればそれって、ゴーティの、貴族の推薦を軽んじる行為になってしまう様な気がする。
それって衛兵達にとっては結構不味い事なんじゃないのかな。うーん、分からない。取り敢えず様子を見るしかないかなぁ。
喉が渇いて来たのでロープに縛られた状態のまま横に置いてある背負い袋の中の水筒をどうにかして出そうとゴソゴソ動きながら悪戦苦闘していると複数の足跡が聞こえて来た。
「久しいな、少年」
牢の柵越しに声を掛けて来た男の顔を薄暗いこの場所でははっきりと見る事は出来なかったけど、その声を聞いてその男がマーウェル騎士団副団長のゴーティだと分かった。
「お久しぶりでございます。マチカネ村のネールです」
ゴーティは、ああ分かっている、とだけ言い、横にいる衛兵に牢を開けるよう指示した。
衛兵は牢を開け僕の身体を縛るロープを解き牢から出る様促した。ゴーティと対面したけど薄暗くてその表情はやっぱりよく分からない。ゴーティは暫く無言で僕を見下ろしていた。
「私について来なさい」そう言い振り返り歩き出した。ゴーティの後ろについて地下を出ると詰所に待機していた、僕を拘束した衛兵の二人の前を横切った。衛兵達は無表情だった。
詰所を出て門を潜り、閑静で豪華な建物が立ち並ぶ区域を歩いた。道は緩やかな坂道が続き次第に進む先にある一際大きな城、伯爵邸が近づいてきた。
ゴーティはその間一言も発する事なく、ただ、追う背中からは妙な緊張感が漂っていた。
伯爵邸は分厚く頑強な高い塀で囲まれている様で門には衛兵が立っていた。ゴーティの後に続き伯爵邸へと進んだ。
かなり大きな石造りの建物で中に入ると豪華絢爛といった内装で様々な装飾品で飾られていた。構造は複雑でまるで迷路の様になっていて入り組んでいる造りになっていた。敵から攻め入りにくくする為なのかな。
ゴーティの後に続き、数人の使用人らしき人達と何度かすれ違いながら一つの部屋に通された。
「ここで待っていてくれ。君に会いたいと言う人物を連れてくる」
部屋は簡素な造りながら赴きがありまた、良質な雰囲気が漂っていた。僕が短く返事をするとゴーティは部屋から出た。
暫く部屋で一人佇んでいると部屋のドアが開きゴーティと、そして一人の女性が姿を現した。
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