第57話

 ダンスンザに着いてから5日が経った。伯父さんは色々と取引先をあたってくれているけど未だにマーウェル伯爵領まで僕を同行させてくれる人が見つからないようだった。


 ダンスンザからマーウェル伯爵領都サインス間での商人の交易は頻繁に行われているらしく伯父さんの予想では取引先の幾つかで僕を同行させてもらう事はそう難しい事ではないと考えていたようだ。


 しかし予想以上に隣国ラフカディオ帝国の食糧不足を好機と考えている商人が多いようでサインスへの行商をラフカディオ帝国へ変更する商人が後を立たないらしい。


 エルドール王国を代表するような大手の商会はその殆どが王都を中心に商いを行っている為、王都に拠点を置く。


 ダンスンザは特にラフカディオ帝国に国境を近くしている街の為、王都の大手商会よりも物理的な距離が近く、大手商会より先に取引先を確保出来る可能性があり、それはかなりの儲けが期待出来るチャンスだという事でダンスンザの商人はこぞってラフカディオ帝国へ向かっているらしい。


 伯父さんからは中々同行先が決まらず謝られたが、とんでもない。ダンスンザまで連れて来てくれただけでも感謝しきれないのに、その上謝られてしまうと、申し訳なさすぎる。


 「このままだと私の取引先から同行出来る先を見つけるのは難しいと思う。明日冒険者ギルドに行って護衛依頼の募集をしよう」


 その提案を受け入れるのは心苦しかったけど仕方がなかった。


 翌日早朝から伯父さんと僕は冒険者ギルドへ向かった。伯父さんが取引先と会っている間、僕は街のあちこちを探索していて冒険者ギルドまでの道のりも慣れたものだった。


 中央広場を過ぎてしばらく商業ギルド横の建物、冒険者ギルドへ着いた。早朝にも関わらず冒険者ギルドの人の出入りは激しい。というか日中より明らかに人が多い。


 伯父さんに尋ねると、朝は冒険者に向けた新規の依頼が出やすく割のいい依頼は競争率が高くなるのでをそれを求めて冒険者が集まる為、一日の中で一番賑わう時間らしいとの事だった。


 冒険者の依頼は早い者勝ちって事みたいだ。ゲームでの冒険者ギルドの役割はサブクエストの受注を行える場所という事だった。


 冒険者ギルド絡みのメインイベントもあるのだけどゲーム序盤のみに少しある程度でそれ以降は特になく、プレイヤーは冒険者ギルドのサブクエストを一度も受けずにゲームをクリアする事もよくあるようだった。



 伯父さんと僕は冒険者ギルドに入った。作りは宿屋と似たような物で食堂と受付があり、宿屋と違うのは木製の掲示板がいくつか設置されておりそこには依頼書が所狭しと貼り付けてあった。


 冒険者はその中から受けたい依頼書を手に取り受付で依頼受注の手続きを行う流れのようだ。掲示板の前には人が溢れかえっていた。溢れかえった人達をなんとかかき分け受付まで進んだ。


 「依頼の発注をお願いしたいのですが」


 受付には男性の職員がいて伯父さんが声を掛けた。職員の案内に従い伯父さんが手続きを行った。


 手続きに少し時間がかかりそうだったのでどんな依頼があるか見て見たかったけど掲示板の前は人だらけでそこに割って入る勇気はなかったので大人しく手続きが終わるまで待っていた。


 「サインスまでの護衛ですか?うーん、ちょっと難しいかも知れませんね」


 職員が伯父さんに説明していたけど、ここでもラフカディオ帝国絡みの影響が出ているようだった。


 実は護衛依頼を受ける冒険者は全体的に結構少ないらしい。ある程度の期間を拘束される事を嫌う冒険者が多いのと依頼主によってはトラブルが起こる事があり、それを嫌っての事だそうだ。


 まぁ、確かに見ず知らずの人間と長い時間過ごすのは気を使うし、護衛対象も当たり外れあるだろうから、気持ちは分からなくはない。


 そんなただでさえ少数の護衛依頼を受ける冒険者達はラフカディオ帝国へ商機を求める商人達の護衛として、そのほとんどが駆り出されているとの事だった。


 


手続きを終え伯父さんと僕は宿屋に戻り遅めの朝食を取った。


 「まさか冒険者を雇う事も難しいとは思わなかった。ごめんよ」


 「伯父さんのせいじゃないよ。気にしないで」


 「明後日にはノーザンに帰る為ダンスンザを出発しないといけない。それまで出来るだけサインスまで同行出来る先を探してみるよ。ネール君、もしサインスまでの同行者が見つからなかったり護衛を請け負う冒険者がいなかったら一緒にノーザンに帰るべきだと思う」


 伯父さんは一旦ノーザンに戻り機会を待つべきだと言ってきた。父ちゃんも母ちゃんも心配するし、そもそも旅路に期限はないのだから焦る必要はないと、伯父さんは僕の事を心配そうに見つめた。


 確かに伯父さんの言う通りかもしれない。一人でこの街に留まりサインスまでの機会を待つのは僕自身も不安だった。


 だけど焦りがある。少しでも早く父ちゃん母ちゃんへ仕送りを行ったり貯蓄をしたい。


 それにノーザンで待てばきっと今よりもっと父ちゃん母ちゃんとの別れが辛くなる。


 伯父さんに同行者や護衛が見つからなかった場合は一人で街に残ると伝えた。伯父さんには反対されたけど僕の気持ちを分かってくれている分、最後には了承してくれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る