第40話

 「ん?あぁ!すまんすまん。少し考え事をしていてね。私の悪い癖なのだが、考え事をしていると気づかないうちに顔が険しくなってしまう様だ。怒っているわけではないから安心して欲しい」


 緊張した面持ちの僕に気づいたのかゴーティが少し焦ったように言った。


 お、怒ってなかったのか。よかったぁ。少し安心したけどそもそもゴーティは僕の何を確認したいんだろうか?うーん、わからん。気が抜けないな。


 「この癖は私の妻にもよく注意されるのだが中々直らなくてね。私には君と同じ年の娘がいるのだが娘を怖がらせて泣かせてしまった事があってからは必死に努力して、これでも随分マシになった方なんだよ」


 それでマシになったって、前はどんだけ怖い顔してたんだよ。娘さん可哀想だわ。てか、この人家族の話になると随分と楽しそうに話すな。なんだか表情も優しくなって、家族の事が大好きなのが伝わってくる。


 「だから君も緊張しなくて大丈夫だからね。ん?そうか、娘と同じ年という事はダグダ教の神のお告げを訊ける年齢だね。ステータスはどうだったかい?」


 「いえ、神のお告げは訊いていないです」


 「そうか、まだなのか。ではいつ頃予定しているのだね?」


 「予定は、ありません」


 「予定はない?どういう事かね?」


 ゴーティに神のお告げは自分の意思で受けない事にした事を伝えた。万が一貴族に奉公を打診されれば農民の自分には断る事が出来ない。自分は村を離れたくないし父の後を継ぎ農民を続けたいからと説明した。


 それを聞いてゴーティの顔が先程と同じ様に険しくなった。さっきは怒ってないって言われたけど、今度は怒っちゃったのかな?顔が怖いよぅ。


 (農民の子が貴族に身請けされる事は滅多にない事だが、この子なら確かに可能性があるかも知れない。自分から受けないと決めたということは、もしかしたら自分自身の能力にその可能性がある事をこの子は気づいているのかも知れない。戦いの才能があり、そして頭もいい。これはかなりの掘り出し物かも知れないな)


 しばらく沈黙が続き、しかもますます険しくなるゴーティの顔。ついには目を瞑ってしまった。えぇ?そんなにまずい事言った?時間が経ち目を瞑ったまま一向に口を開こうとしないゴーティからのプレッシャーに耐え切れなくなってしまった。


 「あ、あの副団長様。ぼ、僕が何か失礼な事をしてしまったでしょうか?」


 恐る恐る尋ねてみた。だけど返事がない。


 (この子は恐らくステータス値も優れているはず。ステータスを開示して、中途半端に存在を知られない方がいいだろうな。ダグダ教や貴族の派閥争いに巻き込まれ潰されるのは非常に忍びない。団長やシュフテン様に一度相談は必要だと思うが......)


はわわっ!やっぱ怒ってる!?と焦っていると、ゴーティが瞑っていた目を開き僕を見た。


「ネール君、マーウェル騎士団に来ないか?」


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