第33話
毎日弱い魔物と地道に戦い、着実にレベルアップしている。
魔物との戦闘は毎回緊張するけど随分と慣れてきた。慣れが余裕を生み、余裕が戦闘中の冷静さに繋がり、危なげなく魔物を倒す事が出来ている。
魔物との戦闘の慣れとは別にレベルアップによるステータス値上昇の恩恵を肌で感じていて、ジョブが農民だけど自分が確実に強くなっていってるのが分かる。
この調子でレベルを上げていきたいけど高レベルを目指すにはどうしても必要な経験値が増えてくるから今戦っている弱い魔物の経験値だと、すぐにペースが鈍化してくる。
焦る必要はないのかもしれない。だけど、レベルが上がるのは早ければ早いほど良い。いつ何時強い魔物がマチカネ村を、父ちゃんや母ちゃんを襲ってくるかわからない。
マチカネ村の周辺は森に入らなければ魔物は出ないけど、その設定がいつブレるか分かったもんじゃない。
ジョブが農民の僕にとっては他のジョブと比べてかなりステータス値が低いから、高いレベルになっておかないとまずい。
もう少し強くなったら森の奥に入って今戦っている魔物よりも少し強い魔物との戦闘に臨む必要があるかもしれない。
いつもの様に湖付近から森の浅い場所でホーンセーブルやフォレストウルフなんかと戦闘していると、途中で木の棒が折れた。実はこれまで何度か戦闘中に折れる事があった。
最初の頃は焦っていたけど何度か経験した今では、落ち着いて魔物からの攻撃を交わして出来た隙に、石を拾って投げつけてふらつかせてから近づいて蹴り倒していた。
前世、山田恵一の頃は何十年も空手をやってたのでその経験のお陰でスムーズに素手でも戦えた。だけどこれはあくまで木の棒が折れた時の緊急措置で、蹴ったり殴ったりすると手や足が結構痛い。
ホーンセーブルなんて見た目完全にうさぎで、フワフワでモコモコな姿をしてる癖に硬いのはやっぱり魔物だからなのかな。
そして木の棒が折れた時は素直に家に帰る様にしている。武器になりそうな手頃な大きさの木の棒ってあまり落ちていなくてすぐに見つからない。森の中で探すのは魔物に襲われるから危険だ。
この日も森に来たばかりでまだ魔物と二回ほどしか戦闘をしていなかったけど家に帰る事にした。
木の棒は訓練でランニングしている時に集めていたのだけど最近は訓練をしておらず魔物との戦闘に時間を割いていたのでストックが無くなってきていた。今日はランニングしながら木の棒を探してみるかな。
湖を後にしてマチカネ村まで戻ってくると村の中心に人だかりが出来ていた。珍しいなと思い近付いてみると人だかりの中心に村の人達とは別の集団がいた。
銀色に光る、軽装だけどしっかりとした鎧を身に纏い、腰には剣を携えた数名と大きな斧や何かよくわからない道具を持ってる数十人だ。
野盗?盗賊?それにしては小綺麗な見た目だし、集まっている村の人達も襲われている様子はなく、むしろ和やかな雰囲気だ。
あっ、父ちゃんもいる。人だかりの中に父ちゃんの姿を見つけ近付いて声をかけた。
「父ちゃん、どうしたの?」
「おう!ネールか!おかえり!というかお前いつもどこに遊びに行ってるんだ?もしかして森に入ったりしてないだろうな?」
「も、森なんか入ってないよ。魔物が出たら怖いもん。村の外れで遊んでたんだよ。それより、皆んな集まってどうしたの?」
「おぉ、そうか!ネールは領主様の騎士の皆さんを見るのは初めてか!」
どうやら武装している数名は領主様に仕える騎士団の人達で、斧等を持ってる人達は木こりの様だ。
この世界の人々の生活に欠かせないものとして薪がある。料理を作ったり冬の間の暖を取ったりするのに使うのだけど町などでは商業ギルドと呼ばれる組織が管理していて、安く人々に販売しているそうだ。
しかしマチカネ村の様な辺境の村には商業ギルドなんてものはないから、薪は売っていない。
そもそも商店すらなく、月に一回ほど行商人が訪問してくる程度だ。
薪を作るには木を切らないといけない。つまり木を切るために森に入らないといけなくなるから魔物に襲われる危険がある。なので魔物に対抗する手段を持たないマチカネ村の様な辺境の村は自前で薪を手に入れる事が非常に難しい。
そこで数年に一度、領主様からの命令で騎士団と木こり達がマチカネ村の様な辺境の村々を周り、当分の間困らない量の木を切って備蓄してもらっているそうだ。
騎士団は木こり達が木を切っている間に木こり達を魔物から守るためにいるらしい。
因みにマチカネ村から一番近いノーザンの町では騎士団や木こりの代わりに冒険者ギルドを通して町が薪作りの依頼を出したりしてるらしい。
マチカネ村には冒険者もいないし冒険者ギルドもないからね。やっぱ田舎はナイナイづくしだわ。
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