第30話

 魔物との戦闘はめちゃくちゃ怖い。でも避けては通れない道だと分かってる。マチカネ村周辺の魔物はゲーム中盤に出現する、まあまあ強い魔物が多いけど僕が狙うのはとにかく弱い魔物だ。


 リスクを負う必要はあるけどゲームと違って一つしかない命だから出来るだけリスクは低い方がいい。


 ただ、ゲームだとランダムでエンカウントしてたから弱い魔物がどの辺りに多いか分からない。だから森の浅い場所ですぐに逃げられる場所がいい。


 家や村の周辺だと逃げた時に魔物が追って来て他の人達に危険が及ぶ可能性があるから、なしだ。それに村の近くで村の人に森に近づいているのを見られると絶対止められる。


 というわけでここ何年かほぼ毎日通っていてよく知ってる場所、湖の近くで魔物と戦う事に決めた。フォレストウルフに襲われた時みたいに湖に逃げ込むって手も取れる。湖に飛び込んでヨコヅナデビルに噛みつかれる危険性はあるけど。


 今僕はいつも釣りをしていた場所に立っている。深呼吸をして尖った木の棒を両手に構えて森に入った。森の際は僕の背丈以上に雑草が生い茂っていて森の中が見えない。


 尖った木の棒を使って雑草をかき分け慎重にゆっくりと進む。するとすぐに雑木林に入り込んだ。不規則に木々が生えているけど雑草は殆どなくなり、結構先まで見通せる。すごく静かで自分の心臓の鼓動がよく聞こえる。


 と、少し先の方でガサガサと音が聞こえた。何かいる。目を凝らしてよく見てみると木の幹と同色の何かがいた。



ホーンセーブル

うさぎ型の魔物

レア度E

鋭い角を持つ

食用可



 鑑定すると、薄汚れた毛並みのホーンセーブルという野うさぎみたいな魔物だった。


 小型犬ぐらいの大きさでゲームでは頭に一本角がついてた魔物だったと思うけどこちらからは後ろ姿しか見えないので角は確認出来ない。


 よく分からないけど穴を掘っているのか?前屈みになってゴソゴソ動いていた。とにかく比較的弱い魔物を見つけられた。しかもこちらに気づいてないようだ。近づいて後ろから一気に倒そう。


 ドキドキと心臓の鼓動する音を落ち着かせながら足音を立てない様にゆっくり近づくと、急にホーンセーブルが立ち上がりこちらに振り返った。


 魔物の赤黒い瞳と目が合ったと同時にホーンセーブルがいきなり飛びかかってきた。


 なんとか躱せたけど足がもつれて尻もちをついてしまった。急な攻撃だったのでびっくりしてしまい尻もちをついたまま一瞬ボーっとしてしまったけど、はっとして視線を向けると、ホーンセーブルの後ろ姿が宙に浮いていた。


 えっ?浮いてる?と思ったけどホーンセーブルの角が太い幹の木に刺さって抜けなくなっているようだと、すぐに分かった。


 足で必至に木の幹を押して頭の角を抜こうとしている姿がなんだか可愛いなとちょっと思ったけど、今がチャンスだ!


 動けないホーンセーブルの背中を尖った木の棒で思いっきり突いた。バキっという音と持つ手の感触で尖った木の棒の先が折れたのが分かった。少しでも尖らせようとより削ったため尖った先が脆くなってしまったのだと思う。


 やばい!全然ダメージ与えてないっぽい。恐怖に駆られ、突くのをやめ、一心不乱にホーンセーブルの体を木の棒で乱打した。


 手に力が入らなくなるまで木の棒を振るって、気がつけば角が刺さったままホーンセーブルがだらんと角だけで木にぶら下がった状態になっていた。


 深呼吸して上がった息を整え、恐る恐る棒の先でホーンセーブルの体をつんつん突いてみたが動かない。どうやら倒せたみたいだ。


 鑑定してみるとホーンセーブルのHPが0になっていた。やった!やったぞ!魔物を倒したぞ!


 「やったぁー!」


 と、つい叫んでしまったが直ぐに他の魔物に気付かれてしまうかもと思い、慌てて口をつぐみ、急いで森を出て湖の前で座り込んだ。怖かったぁー。なんかめっちゃ疲れた。でも初めて魔物を倒せたぞ!やったぁ!


 そして自分のステータスを確認した。経験値が250入ってる。魔物を見つけて倒すまでに時間にすると多分10分ぐらいだったと思う。釣りだと一匹釣り上げるのに一時間ぐらいかかる時もあるし、経験値も釣りの三倍以上手に入った。やっぱりレベルを上げていくには魔物を倒すしかないと実感した。

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