第29話

 「ネールも10才になったから町に行かないといけないな!」 


 目標のレベルを達成して次は魔物と戦う、と決意をした翌日。いつもの様に午前中の農作業の手伝いを終えて家族皆んなでお昼ご飯を食べてる時に父ちゃんが言った。


 町?なんで?...あっ。そう言えば10才になると町にある教会で神のお告げ、ステータスの確認が一回だけ無料で受けられるんだった。


 何年か前にマチカネ村のミノさんの息子のサンテ君がお告げを受けて能力が高かったから、貴族様のところに奉公に出る事になったんだった。


 今の状態で神のお告げでステータス晒すのやばくね?農民の子が10才でレベル30はかなり目立つ気がする。普通は農民の子が積極的にレベル上げしてるなんて事ないだろうし、10才でレベル30になれたのは、サファイヤピアスの経験値取得5倍の効果が大きいと思う。


 もしこれでどっかの貴族様から召し上げられるみたいな話になればマチカネ村を出ていかないといけなくなっちゃう。


 貴族様から「ちょっとお前うちに来い」なんて言われたら一農民にとっては命令と同義で、断る事なんて出来ない。


 父ちゃんや母ちゃんを守るために強くなろうと決心した訳だし、農家として一生を全うしたいんだよ、僕は。だから僕にとって、マチカネ村を出る選択肢はない。


 「あのさ、父ちゃん。教会に行きたくないんだけど」


 「えっ?行きたくない?なんでだよ。町に行けるんだぞ、町に。町は楽しいーぞー。かっこいいしな!」

 

 「町がかっこいいかどうかは知らないけど、行きたくないんだよ」


 「何で行きたくないんだ???」


 さて、困った。何で行きたくないかって上手い言い訳が思いつかん。うーん。どうしたもんか。ここは正直に伝えてみるか。


 「だってさ、教会でもし僕のステータスが良くて貴族様の所に行く事になったら家を出ないと行けなくなるから。僕は大人なったら農家を継ぎたいんだよ」


 「馬鹿だなぁ、ネールは。もしそんな事になったらお金だって沢山貰えるし、そしたら美味しいもの一杯食べれるんだぞ!」


 「でもさぁ、貴族様の所に行く事になったら作法とか勉強しないといけないんじゃないの?僕みたいな農民の子供には窮屈だし、もし貴族様に無礼な事してしまったら大変な事になるかも知れない、って考えたら怖いよ。父ちゃんが貴族様の所に行けって言われたら嫌じゃないの?」


 「ぐむっ。それを言われると確かにそうだな」


 「まぁ、いいじゃないかアンタ。ネールが行きたくないって言ってるんだから。それに貴族様に声を掛けられるなんて滅多にない事なんだし。町にはネールがもう少し大きくなればアンタと一緒に何回だって行けるわけだし」


 父ちゃんは不服そうだけど母ちゃんの言葉に渋々納得した。


 「でもね、ネール。神のお告げを無料で受けられるのは10才の間だけなんだよ。後から受けたいって言ってもお金が一杯かかるから簡単に受けられないけど、いいのかい?」


 「大丈夫だよ、母ちゃん。ありがとう」


 なんとか教会に行かなくて済みそうだ。助かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る