第16話

 魔物と戦うのは諦めたけど毎日訓練は続けていた。農家は体が資本ですから。小さい頃から鍛えとけば将来は立派な農家になれるってもんだよ。


 そんないつも通りの訓練を終えてヘトヘトで畑の近くに岩を背にして座っていると遠くの方から父ちゃんの呼ぶ声が聞こえた。


 視線をそちらに移すと遠くの方でこちらに手を振っている。なんだか随分嬉しそうにしているように感じる。


 僕の所へ近づくにつれ父ちゃんが満面の笑みを浮かべているのが見てとれた。


 「どうしたの父ちゃん。村の集まりで遅くなるんじゃなかったっけ?」


 マチカネ村ではたまに村人が集まって各家の農作物の出来だったり困りごとなんかを村長中心に話し合いを行っているみたいだ。


 ちなみに父ちゃんは村長ではない。村一番の畑を持ってるから昔打診があったらしいけど性に合わないから断ったんだって。


 「おい、ネール!今日はご馳走だぞ!」

 

 父ちゃんは担いでいた籠を僕の前にドンと置いた。その籠を覗いてみると...魚!それも、見たことない様なでかい魚が2匹。


 僕の驚く顔を見てご満悦な父ちゃんが大声で笑いだすと笑い声を聞いてか、家から母ちゃんが出て来た。


 「大きな声がするから誰かとおもえばっ...て、どうしたんだい!?その魚」


 「おう!今日の夕食だ!」


 どうやら村の人全員に配られたみたいだ。村人の集まりで議題に上がったのが、先週に嵐があったんだけど、その被害なんかの確認だったそうだ。結構強い雨風だったけど畑や家屋に被害は殆どなかったみたい。


 一応みんなで村周辺を確認してみようってなったらしく集まってた村人がそれぞれバラバラに巡回してる時に、村から少し離れた川の流れが変わってたらしい。


 川の上流には結構広い湖があるんだけど皆んなで一応湖も異常がないか見に行ったそうだ。


 湖は湧水で、その湧いた水が流れる川になっているからとても綺麗な水で、その川の水はマチカネ村の生活用水として利用してる。異常があれば大変だから湖に異変がないか皆んなで確認に行ったみたい。


 そこで湖からマチカネ村の近くに続く川とは別に、森の奥から湖に流れ込む川が新たに出来ていたのが確認できたそう。


 嵐の影響で、もともと森の奥にあった川が氾濫して湖まで続く新しい川ができたんじゃないかって皆んなで話してたらしい。


 湖の水際まで行くと、でっかい魚がウヨウヨいた。そこで皆んなで協力して魚を捕まえたらしく。


 「まさか、あの湖にあんなに魚がいたなんて知らなかったよ。小さい頃から湖で泳いで遊んでたりしてたまに小さい魚を見かけた事はあったけどなぁ。まぁ、魚が食べれるからなんでもいいか!」


 がははと笑う父ちゃんは随分嬉しそうだ。マチカネ村で魚を食べれる機会は滅多にないからね。海もないし、川や湖にも魚はいないと思ってたから。


 「でも父ちゃん。湖に魚がいる事が分かったんなら、これからもたまに魚が食べれるって事?」


 父ちゃんはへにょりと眉毛を八の字に曲げた。

 

 「それがなぁ、当分湖には立ち入らないようにする事になったんだよ」


 村の皆んなは最初は魚の群れに喜んだけどよくよく考えてみると今まで見なかった魚が急に現れて不安になったみたいだ。


 「多分魚はもともと湖の深い所にいたんだろう。あの湖は広く深いみたいだから今まで見つからなかったのも不思議じゃない。じゃあなんで魚が姿を現したかってのが問題で、もしかしたら魔物の影響じゃないかって話になったんだ」


 嵐の影響で森の奥の川から湖に流れこむ様になって森の川に棲む魔物が湖に入って来た影響で深い所にいた魚が岸側に逃げて来たんじゃないかって話になったらしい。


 森の川の魔物か...ん!?ちょっと待てよ。これ、もしかしたら魔物でレベル上げ、ワンチャンあるかも!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る