黒の双子

 恋火と風楽は螺旋の塔タワーのすぐ近くまでやってきた。巻貝のように渦を巻いた外観が空まで貫いている。

「中も見てみましょうか」

 風楽が提案した。

「お弁当は持ってきた?」

「いえ、今は準備してないですが。恋火さんの好きなおかずは何ですか?」

「タコさんウィンナー」

「ハハハ」

「何か可笑しい?」

「いえ。じゃあ今度来る時は作ってきますね」

 軽口をたたきながら、二人は正面の扉のないぽっかりと空いた入口から塔の内部へ入った。

 塔の内部は、少し薄暗い。窓から入ってくる光が主な光源で、あとはところどころに蝋燭が灯っている。床も壁も石造りで、円柱の壁に沿って螺旋階段がどこまでもどこまでも伸びていた。上を見上げると目が回りそうだ。

「来た来た」

「来たわね」

 幼い二つの声が聞こえた。

 十歳ぐらいの子供のような声に、子供のような身長、子供のような顔。黒いローブのフードをがっぽりと被った二人の少女が近づいてきた。鏡合わせのような、同じ顔。性格の滲み出た表情の作りだけが微妙に異なる。少女たちには大きめなローブの裾は床を擦っている。少女たちはそれぞれ閉じられた黒い傘を手に持っていた。

「やい、違法者」

 少女の一人、小柄な体に似合わず高慢な顔つきのほうが恋火に指を差して言った。

「ちょっと。人に指を差しちゃだめよ」

 もう一人の冷めた表情の少女がたしなめた。

 いきなり子供に違法者呼ばわりされた恋火は、一歩前に進み出る。

「きみたちは迷子? お父さんお母さんとはぐれたの?」

「そうそう、アタシたちは迷子。森の中で両親とはぐれて、ってゴラァ!」

 少女の一人が傘を乱暴に床に叩きつけた。

「恋火さん。こう見えて、彼女たちはここの管理人なんですよ」

「こう見えて? お前もしれっと失礼な奴だな」

「粗暴なほうがジジ。根暗なほうがニニ」

「そう、アタシはジジ」

「ワタシはニニ」

「誰が粗暴だ!」

「根暗じゃないわよ」

「アタシたちは魂を管理する」

「ルールを守らない悪い子にはおしおきしちゃう」

「ズバッと一発」

「刈り取って」

「ハハハ」

「フフフ」

「そう。はぐれた両親と早く再会できるといいね」

 恋火の冷めた対応に、ジジが悔しそうにじだんだを踏んだ。



 恋火と風楽が去っていった後。塔内部の螺旋階段の近くで佇む黒いフードを被った二人の少女。

「どうだった? 何か感じたか?」

「とくに、何も」

「奴は一体どうやってアクセスした? そもそもなぜ記憶を持っていた?」

「わからない。転生のシステムに問題はないはずよ」

「誰かが裏で糸を引いてる?」

「かもしれない。でも誰が?」

 その問いに答える者はいなかった。延々と続く螺旋階段の空間がただひっそりと佇んでいる。

「まあいい。もし何か企んでいる奴がいるなら」

 ジジが片手で黒傘の中棒を掴み、柄を持ったもう片方の手を大きく引いた。こじんまりとした傘に収まっていたとは到底思えない、鋭利で巨大な鎌が露わになる。

「こいつで刈り取ってやる」

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