第141話 後日談2

 数日後。すべての処理を終えた透は、エステルを伴って北門を訪れていた。


「おうトール、久しぶりだな。街を出て行くんだって?」

「ええ」

「まあ、まだ若いから世界を見てまわるのも良いんだろうな」


 門番が腕を組みながら、うんうんと頷いた。彼はエステルが窮地に陥った際、透にヒントを与えてくれた親切な門番だ。彼は今、北門を担当していたようだ。


「時々は戻ってこいよ?」

「はい、必ず」


 新しくなったCランクの冒険者証を受け取り、門を出た。

 これで、フィンリスとはしばしのお別れだ。透は振り返り、しげしげと城壁を眺める。

 その時だった。身長と同じくらい大きな杖を持った少女が、門の向こうから現れた。


「トール。わたしもいく」


 声をかけてきたのは、リリィだった。彼女は背負ったバックパックを、重たそうに背負いなおす。


「行くって……どこへ?」

「北。一緒にいく」

「お店はいいんですか?」


 彼女はフィンリスで魔術書店を営んでいた。以前起こった大火災で焼失して以来、書店は休業したままである。


「ん、あれは過去の未練。断ち切ったから、もういい」

「そう、ですか」

「それに、家もない」

「たしかに」


 先日悪魔が降臨した時、透たちの家は木っ端微塵になってしまった。新たな家も供給がなく、すぐに入手できる状況にない。


「……それで、どうして僕たちと一緒なんですか?」

「ご飯、楽しみ」

「あ、はい」


 透をシェフとして利用する気満々の笑顔に、透はがくっと肩を落とした。


「とーるぅ……」

「あっ、ごめんエステル。リリィさんの同行を勝手に決めたみたいになっちゃって」


「いや、いいのだ。リリィ殿は強い魔術士だし、今後の旅の安全を考えると、断る理由はないのだ」

「それはよかった」

「ただなあ……(二人きりで旅がしたかったのだ)」


 エステルが小声でつぶやくが、後半はほとんど聞き取れなかった。透が聞き返そうとした、その時だった。


「トールさまぁぁぁ! 待ってくださいましぃぃ!」


 今一番聞きたくない声が聞こえた。北門から、ずだだだだ……と激しい足音が響く。

 振り返らずとも、わかる。

 ルカだ。ルカがやってきた!


「みんな、走ろう!」


 透は慌てて北へと駆けだした。ここで捕まると、好ましくない未来が見える。


「トール様、わたくしも、行きますわ!」

「いや、ルカさんあなた、謹慎中でしたよね?」

「それはユステル王国の中だけですわ! 北の国へ往くのでしたら、わたくしの力が役に立ちますわよ?」

「む……」


 言われてみれば一理あるな、と思った。

 ルカはCランクの冒険者で、二つ名を頂くほどの実力者だ。そんな彼女がいれば、道中がぐっと安全になるだろう。


「さあわたくしと一緒に、世界の悪と対峙して、正義の鉄槌を下す旅に出ますわよ!」

「いや、そんな仰々しい旅じゃないですからね!?」

「とーるぅ? ずいぶんと好かれているのだなぁ」


 エステルの瞳がどんどんと昏くなっていく。


「ま、まあルカさんがいればより安全になるし、ね?」

「さすがわたくしのトールさまぁぁぁ!」

「ルカ、うるさい。シェフはわたしのもの」

「トールと初めてパーティを組んだのは私なのだぞ!!」


 三人がバチバチと視線を戦わせる。そんな中、透は気配を消しながらそろりそろりと脱出を企てる。


(嗚呼……空はこんなに青いのに、何故旅の雲行きは怪しいんだろう……)


 現実逃避しているところで、がしっ、と両肩と腰を強い力で捕まれた。

 ぎぎぎ。恐る恐る振り返ると、三人が同時に口を開いた。


「どこへ行くのだとーるぅ?」

「トール様、正義からは逃げられませんのよ?」

「わたしの食事、逃がさない」


 どうやっても、この状況からは逃げ出せないらしい。透は両手を挙げて降参を示した。

 今後、どのような旅が待っているかはわからない。

 けれどきっと、今日よりも明日、明日よりも明後日の方が、素敵になるに違いない。



 エアルガルドに転移した時とは違う。透の新たな旅は、こうして賑やか中で始まったのだった――。




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以上をもちまして、劣等人の魔剣使いに、ピリオドを打たせて頂きます。

ここまで応援してくださった皆様、本当にありがとうございました!


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劣等人の魔剣使いですが、漫画版はまだまだ続きます。

また、小説版にピリオドを打たせて頂きましたが、これからどうするかは今のところ未定でございます。

もし続くことがありましたら、また、連載を追って頂けますと嬉しいです。



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それでは皆様、またの機会に……。

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劣等人の魔剣使い【WEB版】 萩鵜アキ @navisuke9

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