Bパート エルフの先生
Day.37 人間もエルフも、スローライフとゆとり教育が一番ですよ市長くん
『アース十六』──
大抵の種族であればひとつの
もちろん。
その使命をどのように全うするかは、個々の裁量次第だけれど。
「前世はあくまでも前世。すでに人の身でない
部屋を去る間際に放った、スノトラの最後の言葉を
同時に思い出されるは、私がしばしば口ずさんできた召喚魔法の
……う〜ん。スノトラ先生。
日頃の少年といい今回のスノトラといい、なんていうかさ。こうも真正面からぶった斬られ続けるとさ。さすがの全能なる神様でも、
メンタルだけは創造魔法でも作れない、とかいう妖精アルファのはるか昔の至言も一緒に思い出しちゃったぞっ☆
…………はあ。
私はこんな調子で、本当に「最高の世界」を作れるんだろうか?
*****
『創造神専門学校(仮)』は授業が夜間にしか行われないため、日中の敷地内はほとんど自由開放となっていた。
授業がなければ当然、スノトラの「音楽教師」としての仕事もない。必要以上に働くべからずを
(……世界ランキング上位から縁遠いという評判に偽りなかったようですね)
スノトラは校舎A棟の窓から、グラウンドでボール遊びをしている妖精たちをぼんやりと見下ろしつつ──
(綺麗な建物、少ない住民、まだほとんど確立されていない法。これすなわち、絶対数として仕事の量が少ない。……んん〜、素晴らしい。なんっっって『最高の
──文字通り「
他の『アース十六』が滞在している世界は、その大半が彼女らの功績によりランキング上位に位置している。上位種族の中でも上流エルフと名高い彼女らにとって、より高い評定を得ている世界に住むことこそ、一種の
ごく最小限の労働で、より最高の世界を目指すことこそ、彼女ら『アース十六』の嗜みといえよう。
(なあ〜んちゃって……)
もちろん。
(実際はランキング上位の常連で、まともに
そんな
「おはようございます、スノトラ先生!」
黄昏ていたスノトラのところへ、ぱたぱたと廊下を駆けてくる少年の姿。
常に「学ラン」と呼ばれる黒服を身に纏い、創造神に代わって日夜この世界の内政に励んでいる、熱心で素直な働き者。
「お〜はようございます〜♪ スーのかわいい市長く〜ん♪」
白髪の毛先を指先でいじりながら、スノトラは作り笑顔で少年の挨拶に応じた。
「まだお昼なのに登校してきたの? えらいえら〜い♪」
「はい! 俺の家を
創造神を相手にしている時とはまるで人間が変わったような態度で、少年はスノトラに接してくる。
……ちなみに、多様多彩な魔法を有するエルフ族は「魅了」という
「先生、今ってお時間ありますか?」
「追加で先生を雇うって聞いたんで、それを踏まえた学校の時間割とカリキュラムを考えてみました。ぜひ先生のご意見をもらいたいんですけど……」
両手に本やらクリアファイルやら抱えた少年が、学校の生徒なのか先生なのかよく分からない仕事をする様子を微笑ましく眺めていた。
スノトラは人間の子どもに接したのは初めてだったが、なるほど、創造神の言う通り……賢しくも愚かしい少年だと、内心でのみほくそ笑む。
(まあ、どうせ暇だし? 子どもの
少年の誘いに応じたスノトラが、連れていかれたのは図書室だった。
創造神によれば学校が建てられて以降、少年はどうやら暇さえあればピアノのある教室か、この図書室に入り浸っているらしい。「まあ結局引きこもりといえば引きこもりだが、同じ引きこもりでも家に籠るのと学校に篭るのとでは幾分か違うと思うのだよ。少年も少しは成長したんじゃないか? はあ〜はっは!」といった謎の評価も込みで聞かされた情報だ。
(教師の新規雇用の件も二つ返事でオッケーでしたし? やはり、この
わざとらしい口調が内面でも若干抜けなくなりつつあった頃。図書室の椅子に少年と隣り合わせで腰掛ければ、スノトラの目前に広げられたのは──
「まずこれ、創造神に取り寄せてもらったやつ!」
──二人が腰掛けた机と、さらに何台かの机の上に積み重ねてあった本山だった。
*****
どさっ。
「各校で使われている教科書と参考書はもちろん、校風、校歌、一日一週間の時間割、部活動、学校行事、高校入試の過去問、その他もろもろ。日本全国公立私立問わず、判明している限り全部の中学校資料です。約一万校ぶん」
どさどさどさどさっ!
「あと、この学校は基本夜間制ですが、音楽に特化した専門学校ということで、日中は俺が前に通ってた『
少年どころかスノトラすら息つく暇もなく。
本の山をスノトラの目前で崩しながら、少年は嬉々として、開講した日からおよそ三日間ほど費やしてきた学校経営に関する
「………………………………………………………………ねえ、市長くん?」
軽く見積もっても十分以上は喋り倒した少年が、わずかに呼吸したタイミングでスノトラがプレゼンを強制中断させて。
「ええと? つまり〜……」
「はい!」
「市長くんが教えてくれた今の
「はい!」
問いかけられた少年が答えた。さも当然のように。
「週休二日、昼十二時から夜九時の
「……フルタイム」
「中学校教諭の平均勤務時間に合わせてみました……あっでも、最近は残業時間の多さが教員界隈で問題になってるらしいんで、休日や午前を使った
「…………残業」
「俺も市長の仕事で忙しいけど、スノトラ先生のレッスンも新しいエルフの授業も、とにかくいっぱい勉強してみたいです!」
「……………………」
「先生、ここまでで何か質問はありますか?」
スノトラは内心でのみ、目前の生徒に問いかけた。
なぜか先生ではなく、生徒の方が質問を求めてくる現況に対してではなく。
──市長くん。
そんなにいっぱい学校事情を調べたのに、どうして
(Day.37___The Endless Game...)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます