戦場もまた、軍人の日常
加速した
ややあって、その足が止まった。
冷気が強くなり、真っ白な毛並みが逆立つ。
舌打ちをしたモーリスは、スクリーングラスの暗視モードを解除し、冷気が立ち込める暗闇に
トリガーが引かれ、激しい銃声の中、飛び散る薬莢が闇夜に消えていく。
「爆ぜろ!」
冷気の中、うっすらと見える黒い影に叩き込まれた弾丸は、輝く魔法陣を生み出し、真っ赤な炎を上げた。
その直後だ。
再びトリガーを引くが、凍える強風が吹きあがった。そして、いくつもの氷の
ガツガツと音を立て、礫は木々の幹に当たった。すると、そこを中心として太い幹がパキパキと音を立て始めた。それを目視したサリーが「凍ってる!?」と声を上げると、白雪は後方に飛びのいた。
つい今しがたいた場所に、いくつもの氷の礫がめり込み、地面は白く凍っていた。
「白雪! あの氷に触れるなよ」
「変異種で間違いなさそうね!」
「愛翔、風で礫の軌道を変えろ!」
「あんたの火の魔法陣の方が良いと思うけど──」
言いかけた直後、強烈な冷気を感じたサリーは、反射的に愛用の鉄扇を構えた。
白く輝いた鉄扇が風を巻き上げ、襲い来る氷の礫が次々に木々の幹にめり込んでいく。
「
魔装短機関銃を構えたモーリスは、白雪の背に積んである
「積んでる弾は何!?」
「捕縛用だ! 俺は、少将ちゃんほど魔精量が多くないからな!」
これが限界なんだと内心で苦笑したモーリスはサリーを横に退避させると、対魔砲弾のトリガーを引いた。
爆音とともに、砲弾は赤い尾を引いて五十メートル先に着弾した。
「
モーリスが叫べば、砲弾は白く光を放って魔法を発動した。
縦横無尽に放たれた光は、まるで網目の様になり、そこにいた巨体を包み込む。
光に照らされ、その魔物の全容がはっきりとした。
太く鋭い爪が光の網にかけられ、引き千切らんと暴れ、ぱっくりと開いた口は空気を裂くような咆哮を放った。
「続けて撃つ!」
暴れる巨体に二弾、三弾と続けざまに砲弾が撃ち込まれた。
青い巨体が地面に這いつくばる。それでも足掻き、唸り声をあげている。光の網は動きを押さえるだけでなく、対象の魔精を吸収する効果もある。それを三発撃ち込まれているのにかかわらず、這い出そうとしているのだ。その底知れぬ魔精量は、脅威と言える。
二人は、ぞわりと背筋を震わせた。
これを野放しにしてはいけない。そう、本能が告げていた。
モーリスは体内の魔精量が目減りしたのを感じ、ずしりと重くなった腕にぐっと力を込めた。
(さすがに、四発連続はきついな。だが──)
再び、標的の青い獣に視線を向け、口から長い息を吐きだした。
魔装武器の弾には魔法が込められている。それを発動する時には、自己の体内魔精を使う必要がある。当然だが、弾の種類や質量によっても消費される魔精量は変動する。小さな銃弾であれば消費量と回復量のバランスは
「代わるわよ!」
「いい! お前は温存しとけ!」
「でも……」
「ちょっと多めの献血と思えば、何てことはない」
少将ちゃん──翁川綾乃がたどり着くまで持ちこたえればいい。そう判断したモーリスは、再び青い獣に照準を定めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます