3-2 季節の花に彩られた隠れ家のよう
しばらく歩道を進むと、サリーはモーリスの手を払って立ち止まった。
「何、まだ妬いてんの?」
「そんなわけないでしょ」
不機嫌な顔で見上げてくる姿をまじまじと見たモーリスは、へぇと呟く。
美しいピンクブロンドの髪がふわりと揺れ、サリーから香る甘い芳香が、モーリスの
食べたくなる。そんなことを言った暁には、美しいおみ足が宙を切りそうだが。そんなことを考えながら、モーリスは口元を緩めた。
「何よ、黙り込んで」
居心地悪そうに唇を尖らせる表情に、モーリスは微笑み返す。その微笑みはあまりにも綺麗で、横を通り過ぎる女性たちがちらちらと盗み見たほどだ。
ぱっと白い頬を染めたサリーは、その顔を隠すように背を向け、グレンチェックのロングスカートを
(いや、控えめに言っても、女神だけどな)
サリーの姿に見とれながら、モーリスの口元は緩みっぱなしだった。
「じろじろ見ないでよ」
「分かっていたが……お前、何でも似合うよな」
「は? 何、それ」
くるっと振り返った顔は驚きの色に染まり、つぶらな瞳がさらに大きく見開かれた。
赤い唇を少し尖らせながら、ショーウィンドウに映る自分を見たサリーはニット帽の角度を直した。
その腰に片手を回して引き寄せると、モーリスは耳元に口を寄せる。
「綺麗だ、て言ってるんだけど?」
「もう少し、ストレートに言わないと、
「へぇ、少しは喜ぶんだ?」
「……ここで蹴り飛ばしたら人目につくでしょね」
モーリスの腰に腕を回し、彼を見上げて微笑みながら青筋を立てるサリーは唇が触れそうな距離で囁いた。
「
十分人目についていることに気づいていないのだろうか。その疑問をひとまず保留にし、モーリスはとびっきりの笑みを披露する。
「それじゃ、
「えぇ、そうね。
「今の時代は平等がセオリーだと思うけど?」
「あたしと付き合うなら、あたしルールでいくのよ」
バチバチと火花が散りそうなほどに見つめ合った末に、モーリスは
レンガの敷き詰められた遊歩道を進み、二人が訪れたのは
建造物は、旧世界の建物を侵食した樹木をそのままにした古い建物だ。新しい建材で補強をしながら、旧世界のものを使うことは珍しくないが、この店の外観は別格と言えた。
古びた建造物は薔薇の
街の外にある森はどこに立ち入っても、魔物がいる。
気楽に森へ行くことの出来ない人々の癒しが、作られた森のようなティールームとは、なんたる皮肉だろうか。
店内に入り、客の笑顔を眺めたモーリスは、心の内で苦笑いを浮かべた。
ブランチ時ということもあり、室内の席は若いカップルや女性客で賑わい始めていた。多くの客の目的は、この癒しの空間で味わう紅茶と洋菓子だろう。あちらこちらから、花のような香りと甘い砂糖とミルクの香りが漂ってきた。
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