4-6 お帰りの挨拶にしてはハードだと思うんだけど?
赤の森で野営訓練を兼ねた五日の遠征を終えて帰還したモーリスは、候補生たちに
「次は、魔精石だが──」
「モーリス!」
回収した大量の魔精石を抱える候補生に指示を出そうとしたその時、ひと際大きい声に言葉を
振り返ると、そこにサリーの姿があった。どこか緊張した面持ちだ。
「何か、急な案件らしいぞ。ひよっ子どもには引継ぎの流れを説明すりゃいいんだろ? 俺が代わっておく」
「……じゃぁ、任せる。三日間の休暇の後、訓練前に渡しておいた課題が提出になることも口頭で伝えてくれ」
「いいぜ。ついでに筋トレ課題も追加して良いか? あいつら、ひ弱すぎだろう」
「お前と比較してやるな」
ちらりとジンを見たモーリスは、適度になと言って苦笑する。
モーリスとて五日程度の野営で気が滅入るような
(解散前に筋トレだ、とか言い出しそうだな)
意気揚々と候補生たちに近づくジンの背中を見て、モーリスは心の内で合掌をした。
彼らに背を向けて小走りになり、眉間の
「お帰り」
「ただいま。どうしたんだよ。眉間の皴、とれなくなるぞ?」
「そんなの、とっくに手遅れよ。それより……
眉間を触ろうとするモーリスの手を払い、サリーは
鉄製の扉が重苦しい音を立てて開かれた。
無言のまま
「話をするのは良いんだが、シャワーぐらい浴びたいんだけど」
「はぁ?」
「いやぁ、ほら、こうも汚れてちゃ、お前を抱きしめられないな。とか思うわけだ」
「抱きしめる必要なんてないでしょ」
足を止めて振り返ったサリーの顔は、明らかな嫌悪感を
「俺が抱きしめたいだけなんだけど?」
「……言ってる意味が分からない」
「今、お前も俺もフリーだ。だったら、全力で口説くしかないだろう」
「何バカなこと言ってるの?」
「口説けるときに口説いておかないとな。いざって時に後悔する気はない」
いざと言う時が何を意味するのか、軍人であれば簡単に想像がつくだろう。
大きくため息をついたサリーは
「おいっ、どこ行くんだ?」
「宿舎で話しましょう。まずは、事務処理を終わらせてきて」
「急ぎじゃないのか?」
「シャワーくらい待てるわよ」
さっさと話を終わらせるつもりだっただけよと、ぶつぶつ言いながら歩き出したサリーを追ったモーリスは、にんまりと笑ってその顔を覗き込む。直後、
「勘違いしないで」
「俺、まだ何も言ってないけど?」
「そのにやけ顔が気に入らない」
「そりゃ、惚れた相手が俺のシャワーを待ってくれるなんて状況──」
にやけない訳がないと言い切る前に、再びサリーの拳がモーリスの腹を目がけて突き上げられた。
(
顔を引きつらせたモーリスは、
「相変わらず、過激な愛情表現だな、
「サリーよ。下らないこと言ってないで、さっさと行ってこい!」
パンッと小気味の良い音を響かせて手が弾かれた直後、引き締まった足がぐんっとしなり、モーリスの肩を狙うようにして
「だから、どうしてお前は、そう、いつも!」
「あんたの顔見てると、蹴り倒したくなるだけよ」
久々にボンテージで包まれた美しい足を受け止めつつ、違う形で触らせろと思いながら、モーリスは笑顔を引きつらせる。
ほんの刹那、絡み合った視線はすぐさま
そっぽを向いたサリーは距離を置くと、耳をしきりに触りながら、さっさと片付けて来いと再び告げた。その背に、照れんなよと声をかけるのを思い止まり、モーリスは教官室に足を向けた。
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