1-6 情けない姿を見せたくない男心
やけに冷たく感じる床をひたひたと進み、小さな冷蔵庫の前に
日頃、食事は軍の食堂だ。自炊はほとんどしないため、そこに並ぶものが寂しいのは致し方ない。そんなことにため息をついていたのではなく──
「……しばらく酒はお預けか」
仕方ないと己に言い聞かせたモーリスは、横に置かれたミネラルウォーターのボトルを掴み取り、無造作に冷蔵庫の扉を閉めた。
処方された抗生剤と鎮痛剤を冷えた水と一緒に胃に流し込むと、空になったボトルを投げ捨て、簡素なベッドに腰を下ろした。
麻酔が完全に切れたのだろう。熱を持った腕がじくじくと痛み始めていた。
「しくったなぁ……」
無様に怪我した姿を
洗浄と回復の魔法でモーリスに応急処置をほどこしたサリーの顔は真剣そのものだった。心配するような素振りもなければ、いつものように突っかかっることもない。その表情はじっと腕を観察するようでもあり、泣くのを堪えているようにも見えた。
居たたまれない空気というのだろうか。ふざけて声をかけるどころか、笑いかけることすら
候補生の状況を聞くことで、その場の嫌な空気を払拭しようとしたが、果たしてその選択は正解だったのか。
(むしろ
息が熱くなるのを感じながら、モーリスは薄れ始めた意識を繋ぎ止める。
小さな意地が込み上げるのに気付いた。このまま動けなくなるのは実に情けない、と。
深い息が吐き出された。
(いくら
もう少しやりようもあったかもしれない──気が滅入りそうになりながら失態を振り返っていたモーリスは、ふと、真っ暗な視界に幼いサリーの姿を思い浮かべた。
その姿は初等教育を受けていた頃の、愛らしい少年だ。
『バカモーリス! 喧嘩なんてするから怪我するんだよ!』
ぼろぼろのぬいぐるみを胸に抱き、大粒の涙を流して何度も「バカモーリス」と罵る姿に胸が苦しくなった。
止まらない涙を拭いたくて、じくじくと痛む腕を持ち上げるも、その指は届かない。すぐ目の前にいる筈なのに、その姿はとても遠い。
いくら指を伸ばしても小さなサリーの涙を拭うことは出来ないことを歯がゆく思い、揺らぐ意識の中でモーリスは「泣くなよ」と低く
現実と夢の境界線があやふやなまま、息苦しさにもがくように再び手を伸ばす。
あと少し、あと少し。そう繰り返していると、聞き覚えのある声が耳に届いてきた。
(そうか、夢を見ているんだ──)
届いてくるこの声も、記憶から再生されたものだ。そう思いながら、モーリスは気怠さと熱さに喘ぎながら重たい
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