　揺れ動くケイの視線を探りながら、モーリスはさてどう話を進めるかと考えていた。

（もしも、俺の負傷であれば、一瞬でも腕を見るだろうが、そういった素振りはない。他に何か悩みがあるということか）

　これは昨日今日の悩みではなさそうだと判断し、モーリスはしばらく思考を巡らすと──

「魔装具は俺の使う魔装短機関銃（マギア・サブマシンガン）や魔装狙撃銃（マギア・ライフル）以外にもある。佐里が使う鉄扇、それに剣や刀、接近向きのものもな。だが、回収作業には必ず拳銃を使う。回転式か自動式かを選べるが、どちらにせよその射撃の腕がお粗末であれば現場では使い物にならない」

　何が言いたいのか分かるかと問うように、淡々と語り始めた。

「先日のような大量回収の場合は、手慣れた使い手が一斉回収を行うが、魔物は大型なものもいる。そういうのは、まず魔精石を撃ち抜かなければ回収が厳しい。一発で決めなければならない時もあれば、その一発が生死を分けることさえある」

　その為、射撃の腕を日々磨（みが）くに越したことはない。最前線に立つ魔装具使いも、現場から帰還すれば射撃訓練や調整に余念がないものだ。

　当然のことながら、ケイも講習でその辺りはきちんと履修している。今更な話であっただろうが、優等生な彼は特に言い返すこともなく、心得ていますと頷いた。

「だが俺は、お前達の射撃スコアをそんな重要視していない」

「……え？」

「いくら射撃の腕がよくったって、現場でそのトリガーが引けなければ何の意味もないだろ？」

　人差し指と親指を立て、拳銃を模してケイに狙いを定めるそぶりを見せたモーリスが「撃てない奴は死ぬ」と言うと、彼の目が僅かに見開かれた。

「一般兵と違い、魔装具使いは若い内から最前線に送られる。俺ら教官は、お前達を預かっているから今はアサゴに留まっている。だが、上層部が必要と判断すれば、すぐにでも召集される。怪我をしてようが、身内に不幸があろうが、声がかかればどこにでも赴（おもむ）く。軍人ってのはそういうもんだ」

　ケイは浅い息を繰り返し、静かにモーリスの言葉に耳を傾けていた。

　二人の間を、ひやりとした秋風が首筋を抜けていく。

「そして、その時に最も必要なものは、覚悟だ」

「覚悟……」

「俺はな、射撃のスコアはその覚悟を持つための、要素の一つでしかないと思ってる」

　新米に経験則が足りないのは当然のことだ。誰にだって初めてはある。その時は積み上げたものを後ろ盾に戦うしかない。その為の候補生であり、実地訓練だ。射撃訓練も反復することで体に染み込ませるのが目的で、全てはい（・）ざ（・）と（・）い（・）う（・）場（・）面（・）で体を動かすためのものだ。

「お前がどうして戸惑ってるのか、俺は知らないけどな。前線に立ってきた経験なら語れる。迷いがあるなら話してみろ」

　すっかり陽が沈み、茜色から深い藍色に変わっていく西の空に背を向けていたモーリスは、黙り込んで足元を睨むケイの返事を待った。

「……教官は、人を撃ったことがありますか？」

　予想していなかった質問に、モーリスは眉間に力を込めて息を飲むと、短く「ある」と答えた。

　軍人の多くは対魔物の攻防戦に駆り出される。他国とも稀に諍（いさか）いが起きるが、魔装具使いがそういった対人紛争に赴（おもむ）くことは少ない。

　しかし、ない訳ではない。魔装具の技術を求める他国へ情報を売ろうとする裏切り者が出ることもあり、そういった場合に対処が求められることも、ままあるのだ。

「対人の任務はそう多くない。対人紛争も、めったなことじゃ起きない。どこだって、今は魔物の駆除が最優先事項だからな」

　そう焦るなと言い、ぽんっとケイの肩を叩いたモーリスは、彼が小刻みに震えているのに違和感を覚えた。

「違うんです、教官！」

　そうじゃないのだと、声を荒げたケイの表情は何かに恐怖しているようでもあった。

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