第6話瞬殺の女神(紅葉視点)


「あーもうっ! いらいらするー!」


家を飛び出した瞬間、私はイライラが爆発して、地面を二、三度蹴って、馬鹿兄貴に毒を吐いていた。


私――立花 紅葉は、兄であるミツキに今、猛烈に腹が立っている。


何なの? あの態度?


帰ってくるのが遅いなぁ~とは思って待ってたけど。


鼻の下なんか伸ばしちゃってさ。


自分ではバレてないって思ってるか知らないけど、顔に出過ぎ。


絶対、何かあったよコレ。


お兄からは絶対にしない……こう、何ていうか……フルーティーな香水の香りもふわっと一瞬したから、みどりちゃんだって思ったのに。


何が「ちげぇよ」「西条は関係ない」だよ!


「は゛ぁ゛~~~」


ため息を一つや二つ吐いた所で、気が治まらない。


と、その時、考えたくもない事が脳裏を掠めた。


……てことは、お兄はみどりちゃん以外の誰かに好意を寄せられたって事?


ぽわわんと浮かんだ考え。


「いやぁ、ないない。ないね!」


だって、あのお兄だよ?


ぱっと見ただけじゃ、お兄の良さなんか誰にも分かんないはずなのに。


そんな鋭い子がいるとは思えないし、居ても私は認めないよ?


みどりちゃんしか。


――西条 みどり。


私の一個違いの先輩で、私の幼馴染。


ちっちゃな頃からよく遊んでいて、お姉ちゃんみたいな存在だ。


容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。


三拍子そろった、完璧を地で行くみどりちゃんは、学校でも男女問わずに人気がある。


私はまだ入学してなかったから知らないけど、告白された数は1年生の頃は数え切れなかったそうだ。


中にはサッカー部キャプテンの黒澤先輩も居たらしい。


でも、みどりちゃんは全部拒否。


「無理」

「ありえないわ」

「キモ」


一言でばっさりとフッてしまうことから、ついたあだ名は「瞬殺の女神」。


――フラれた男子はトラウマを植え付けられ、おかげで、今ではめっきり減っている。


これも全部奥手でヒヨってたお兄の為だってのに…。


まあ、みどりちゃんも肝心なところでテンパって今二人はああなってるわけだから、どっちもどっちなんだけど……。


あーあ。


やっぱり、さっき一発グーパンを食らわせても吐かせるべきだったね……。


どうしてこう恋愛ってうまくいかないんだろうなぁ。


頭の中で情けないお兄に往復びんたして、私は「よし」、と自分の頬に気合いを入れる為に叩き、決心した。


――お兄が隠している事を一刻も早く暴いてやる、と。





















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