Act.7-2
昴の部屋で朝食を共にした日から、ふたりの食事は続いていった。
「また食べに来いよ」
自分の部屋へと戻るクロセに、昴は次の約束を結んだ。
「……呼んでくれれば、いつでも」
クロセは
それから何度か、仕事もこなした。昴が銃を抜く場面もあったが、殺すには至らなかった。クロセが撃たせなかったからだ。威嚇射撃や、相手を無力化するために撃つのは任せてくれるようになったものの、それ以上については、クロセは
「久し振りに、大きな
《
「……人身売買……」
「はい。元・外務官僚、
「検察官が死亡……」
「ええ。消されたんですね」
《
「……それじゃあ、以降の捜査は第九機関が?」
「捜査というと語弊がありますね。私たちは公安の仕事を引き継いだわけではありません。私たちがアカガネを追ったのは、彼が牛耳る売買ルートから反政府組織に金が流れていることを掴んだからです。私たちの目的は、アカガネの身柄を確保し彼自身を断罪することではなく、反政府組織に注がれる金の蛇口を止めることです」
「目的は分かる。だが、俺たちに指令が出されたということは、それだけの証拠を掴んだってことだろ? 殺さずに拘束して、公安に引き渡して罪を償わせることは、できないのか?」
「公安に引き渡せば、丁重にもてなされて不起訴になるのがオチです」
特権階級の人間は、引退してもなお、腐れば腐るほど権力の使い方が上手くなるんです。あるいは、権力を使いこなすから腐るのか、ね。そう言って、《
「検察官が殺された時点で、見切りはついている。表の世界では裁けなかったから、私たち第九機関が手を下すんです。法も権力の圧力も、私たちには効きませんから。そして、私たちが動く以上、彼の末路は贖罪ではなく、粛清です」
「……超法規的措置か」
「ええ」
「この国の司法は、とっくに権力に敗北しているんですよ」
それに、と《
「第九機関にとって、個人の罪はどうでもいいんですよ。人身売買だろうと、違法薬物だろうとね。罪の重さに見合った罰を与えるのは、第九機関の仕事じゃない。償いなんて必要ない。粛清すべきか否か。オセロの表裏のように、白か黒かがあるだけ。今回なら、反政府組織に金を流しているから抹殺する。それだけです」
《
それから《
「……アカガネ」
《
「クロセさん」
《
「今回の任務……《
「そうか」
クロセの視線は、机上の資料の一点に注がれていた。《
「……クロセ……?」
昴が思わず声を掛けるのと、クロセが立ち上がるのは同時だった。
「……《
《
「シラハさん」
早々に閉められたドアを静かに見つめていた《
「クロセさんのこと、よろしくお願いします。クロセさんのことだから大丈夫だとは思いますが……万が一にも、暴走しないように」
「暴走?」
どういうことだ? と昴は眉根を寄せる。
「さっきの……クロセを今回の任務に加えるか迷っていたっていうのも……」
アカガネが《
「……私たちには、苦い経験があります」
膝の上で
「実は、三年前にも、一度、私たちはアカガネの粛清を試みていました」
今回と同様に居所を掴むまでは至っていたんです、と悔しそうに目を伏せて。
「三年前……」
「はい。……当時の《
「それなら、なぜ……」
「不運で、不幸な、不可抗力です。計画を実行に移す直前、《
第九機関の存在は、知られるべきところには知られている。特に、粛清の対象になり得ることをしている人間にとっては、第九機関は脅威であり、
「アカガネの差し金でした。《
「まさか……」
昴は思い出す。最初の日に会った《
表情を落とした昴に、《
「クロセさんは、当時、その《
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