第22話:回顧

「……こんな感じかな」

 翔が、言葉を切る。

 焔と初めて出会い、友人、と呼べる関係となったあの日の出来事……

 それを語りきった時、既に三人ともグラスが空になっていた。

「ふん」

 焔が、鼻を鳴らす。

「もう気が済んだだろう? 解ったら帰れ」

 焔が言う。

「まあまあ」

 少女は窘める様に言い、テーブルの上に置かれていた酒の瓶を手に取り、立ち上がって二人のグラスに並々と注いだ。

「こうしてお酌もしてあげるからさ、私もちょっとくらい混ざっても良いでしょう?」

 少女はそう言って、自分のグラスにも酒を注いで、ソファーに腰を下ろす。


「そういえば、まだ自己紹介もして無かったわね」

 少女はそう言って、翔に向き直る。

「私は、水城聆(みずきれい)、聆で良いわ、年齢は……まあ未成年じゃない、とだけ言っておくわ」

 少女。

 水城聆はそう言って、翔に向かって右手を差し出す。

「どうも」

 翔もその手を握り返す。

「……こいつと出会ったのは、今から二年くらい前かしらね」

 聆が、焔に問いかける。

「さあ、忘れたな」

 焔はそう言って、グラスの中の酒をあおる。

「……きっかけは、その……」

 翔が問いかける。

「ええ」

 少女。

 聆は、少しだけ笑う。

「『妖怪』に関連する『事件』がきっかけよ、そしてそれは……」

 聆は、目を閉じる。

「私の、父親のせいでもあるって訳」

「……父親」

 翔が言う。

「まあ、色々と長くなる話だけどね」

 聆が軽く笑う。

「大した事じゃ無いさ」

 焔が言う。

 その言葉に、聆は焔を見る。

「貴方にとっては、そうかも知れないけれどね、私は……」

 聆が言う。

「私は感謝してる、貴方のおかげで姉さんは……」

 聆は目を閉じる。

「だが……」

 焔が言う。

「お前は、その姉には……」

 焔は言う。

「……その程度は、大した問題じゃ無いわ」

 聆は目を開ける。

「姉さんは、何も知らなくて良いの、自分が半分とはいえ……」

 聆は、ゆっくりと……

 ゆっくりと、右手を前に突き出す。


 ごぼ……


 と。

 翔が手にしたグラスの中の酒が、一瞬泡立つ。

 翔はじっと。

 じっと、突き出された聆の手を見ていた。

「『水蛇(みずち)』……」

 翔が呟く。

 そう。

 彼女から発せられるのは、妖怪達が持つ特有の『妖気』ばかりでは無く。

 『水』の『気』。陰陽師である翔は、それを鋭敏に感じ取っていた。彼女は水を自在に操れる『妖怪』だ、と。

 そして。

 突き出された聆の右手は……

 いつの間にか、鱗に覆われた、まるで蜥蜴か、蛇の身体の様になっていた。


 聆が、ゆっくりと右手を下ろした。

 酒の表面の泡も、いつの間にか消え、聆の右手も、既に元の少女のそれに戻っていた。

「『妖怪』の血を引いているなんて事も、妹がいるって事も、姉さんは知らなくて良い」

 聆が焔を見る。

「ついでに言えば、姉さんを狙っていた連中の事もね」

 そうして。

 聆は、翔を見る。

「二年前、この事務所に、ある人が『依頼』に来たの」

 聆が言う。

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