第6話 襲撃

 ややあって……


 どおんっ!!


 轟音が轟き、床を突き破って、何かが飛び出す。


 まるで、巨大な蛇の様に蠢く『それ』が、焔の指先に灯された炎に照らし出される。


 『それ』は……

 『それ』は……


 巨大な、樹の根だった。


 うねうねと、目の前で樹の根が蠢く。

 数は二本、それらが、まさしく獲物に食らいつこうとする蛇の様に、焔の方に、その先端部分を向ける。

 じっ、と、焔はその先端を見る。


 二本のうちの一本、左側の根は、槍の様に先端が尖っている。

 もう一方、右側の方の根は、先端が鈍器の様な形状になっている。

 それを見て、焔は思い出す。

 二階に上がる為の階段が、叩き潰された様に破壊されていた事を。

 つまり……

「……最初から、ここに誘導する気だった、という事か」

 焔は呟いた。

 そして……

 二本の根が、こちらに狙いを定めた様に、一瞬、動きを止め。

 そのまま、一気に焔に迫る。


 しゅるしゅる、しゅるしゅると……

 衣擦れの様な音と共に、二本の根が、焔に迫って来る。


 先に焔の眼前に迫ったのは、槍の様な形状の方。

 僅かに先端部分を引かせ、そのまま勢い良く焔に、鋭い槍の様な先端を繰り出す。

 焔はため息をつきながら、その場から飛び退いた。

 どおんっ!! と大きな音が響く。槍の様な根が、床に穴を開ける。

 焔は離れた位置に着地した。

 だけど……

 その途端に、横から、例の鈍器の様な根がぶおんっ、と振るわれる。

 焔は、右掌に炎を生み出す。

 そのまま、叩きつける様に横から迫って来る根に向けて、炎を叩きつける。

 爆発音が轟き、樹の根が炎に包まれる。

 そのまま炎に包まれた根が、どう、と床の上に投げ出される。

 だが……


 しゅるしゅるしゅるっ!!


 奇怪な音と共に、槍の様に尖った方が再び焔に迫る。

 そして。

 そのまま巨大な蛇の様な根が、こちらに突っ込んで来る。

 焔は、その場を動かない。


「……」

 この大学に来てから、ずっと……

 ずっと、持っていた『武器』がある。

 中里も、多分あの理事長も気づいていたのだろうが、何も言わなかった。

 まさか……

 まさか、『武器』とは思っていなかった。

 或いは、それが何なのか聞くのが怖かったのかも知れない。あの理事長ならば、それもあり得るだろう。

 焔はそんな事を思いながら、ずっと……

 ずっと、背中に背負っていた『武器』を、ゆっくりと……

 ゆっくりと、下ろした。

 それは……

 それは……

 麻布にくるまれた、細長い棒状の『武器』。

 その口の紐をしゅるり、と解く。

 そして……

 その瞬間に、焔が立っていた場所に、槍の様な樹の根が突き刺さる。


 だけど……

 槍の様な樹の根が貫いたのは……

 一枚の布だけ。

 焔は、既に後方に着地していた。

 そのまま、だっ、と床を蹴る。

 その手に握られているのは、黒い鞘に収められた日本刀。

 樹の根が、床からずっ、と先端を抜き、迫り来る焔に向けて再び、その鋭い先端部を向けた。

 だが。

 その時焔は既に、樹の根のすぐ正面に迫っていた。

 そして。

「はあっ!!」

 裂帛の気合いと共に……

 焔が、刀を抜き様に一閃させる。


 居合い。

 火炎の術に次ぐ、焔のもう一つの『武器』である。


 銀色の光が一閃し……

 槍の様な樹の根の先端が、樹液、なのだろうか? 血の様に赤黒い液体をぶちまけながら……

 どさり、と。

 床の上に……

 落ちた。

 

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