第99話 連環計 Ⅰ
「もし、孔明殿の陣所はどちらかな?」
散策に出掛けていた風魯にある男が声を掛けてきた。
見るからに知的な感じの男だ。
「孔明殿に会いたい?それなら私も今、陣所に戻るところだからついてくる?」
風魯が案内を申し出ると彼は深々と頭を下げて、
「よろしくお願いします、風魯大将軍」
と言うので、
「え、私の名前を知っているの?」
風魯は過去に会ったことのある人の顔を思い浮かべたが、そのような顔はいない。
「ええ、孔明から手紙で大将軍の話は伺っております」
「あ、申し遅れました。私は
彼は龐統といい、孔明の親友だと言っていた。
後で知った話だが、水鏡先生こと司馬徽が臥龍と鳳雛と称えたうちの鳳雛に当たるらしい。
「孔明からよく散策に出るお方と聞いています。あと、あの孔明がひれ伏すほどの天才であるとも」
「え、天才!?私はその逆の頭だと思うけど」
「またまた、ご冗談を。あの孔明が申すのです。間違いないでしょう」
そんなことを話しているうちに孫呉の陣営へと帰ってきた。
「孔明殿、龐統殿が来てるから起きて」
風魯が陣所に戻ると、孔明は机の上に書物を開いた状態で寝落ちしていた。
「孔明は相変わらずだな」
「・・・ん、あ、士元か。久しぶりだな」
こうして、両者は再会を喜んでいる雰囲気であったので、風魯はそっとその場を離れた。
「ん?何だろう、この置き手紙は」
風魯が陣幕で区切られた別室に向かうと、そこには差出人不明の手紙が。
それを開いてみると、司馬懿からの密書であった。
”風魯大将軍、お疲れ様です。このままでは曹操陣営が大勝しそうな情勢です。我々は漢王朝の再興を託された身。大将軍にはそちらの近況と呉を勝たせる作戦をお聞かせて願いたく筆を執った次第”
(こちらの近況と作戦ねぇ・・・そうか、司馬懿殿は本当に黄蓋殿が離反したと思って危惧しているのか)
そう考えた風魯は司馬懿宛に密書を認めた。
”安心してほしい。黄蓋殿の離反は敵を欺くためだから。結局は黄蓋殿の船に火薬を積んで燃えた状態で曹操軍に突入させるみたいだ”
風魯はこんな感じに書を認めたが、肝心の司馬懿に届ける方法が分からなかった。
(弱ったなぁ。ひとまず机に置いといて、密書を持ってきた人が夜中にでもそれを拾って持って帰ってくれることを願うかな)
風魯はまだ司馬懿の配下が密書を届けたままどこかに潜んでいると考えて置いといたが、実際は陣所内の警備が固く、いられるはずもない。
そして、南風が強くなったその日の夜。
風魯が眠りについた後、突発的に強まった南風で風魯が認めた密書が飛んで行ってしまった。
その密書はひらひらと揚子江の上空を飛び、曹操陣営へと落ちた。
「ん、なんだ、この手紙は」
曹操軍の中でそれを真っ先に拾ったのは、あの青年鄧艾である。
(こ、これは大変な内容だ!これが事実ならば丞相様は騙されている!)
彼はすぐに報告しようとしたが、その手紙の最後に差出人の名前として風魯と書かれていたので悩む。
(風魯大将軍は私にとって大切な恩人・・・、はてさてどうしたものか・・・)
結局、鄧艾は曹操に伝えられないまま三日三晩と過ぎていくのである。
一方の風魯は翌朝起きて手紙がないのを確認し、
(ああ、ちゃんと拾って帰ってくれたな)
と考え安心しきっていた。司馬懿に渡らず鄧艾に渡ったことなど知る由もないのである。
※人物紹介
・龐統:水鏡先生こと司馬徽が臥龍の孔明と並んで称えた逸材、鳳雛、孔明とは古くからの仲であり、お互いを高めてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます