第67話 風魯太守計画 Ⅳ

 「徐福、曹操を荊州に引き入れるにはどうしたらいいと思う?」


 劉備は軍師の徐福に尋ねる。


 「そうですね、曹操としては風魯殿が太守になるのは嫌でしょうから、ここはこの私が曹操の下に行って直に伝えてきましょう」


 徐福の返答に劉備は、


 「いや、それはやめた方がいい。そなたの身に万が一のことがあったら・・・」


 と反対したが、徐福は珍しく頑なであり、


 「ご心配には及びません。必ず帰ってきますから。それに、我が君がお求めになっているのは臥龍と鳳雛なはず。例え私がいなくなっても問題ないでしょう」


 と言って聞かなかった。


 (徐福がいなくなったら大問題だが、必ず帰ってくると言っているし、ここは彼に託すか・・・)


 こうして、徐福は劉備の使者として曹操のいる許昌へと赴くことに。


 「では、必ずや目的を果たしてみせます」


 劉備にそう挨拶して徐福は北へと歩き出す。


 徐福は確かに帰ってくると約束したが、帰国した後にずっといるとは一言も言わなかった。

 そう、徐福は既に劉備の下を離れると決めていたのだ。


 (劉備殿が頼りにしてくれるのは嬉しいことだが、本当の目的である臥龍と鳳雛の存在を忘れている。我が君が私ごときで満足されるようでは困る。だから・・・)


 徐福は曹操に従う気でいた。


 裏切り?


 否、これは劉備を想ってのことである。

もちろん、約束通り一度は帰って挨拶するつもりだ。


 (我が君、私の無礼をお許し下さい。私は誤解されてもいい。ただ、我が君にはもっと高いところを目指してほしいのです)


 そんなことを考えながら、彼は許昌へと入った。



 

 「何、蔡瑁めがそのような画策を!?」


 徐福の言葉に曹操は爆発寸前である。


 曹操はこれまで、近寄ってきた蔡瑁を信頼し、劉表の死後は実権を握った彼から荊州を引き渡されると信じ切っていた。

 それだけに裏切られた曹操の怒りはひとしおであり、また風魯が太守になったらと考えると放っておけなかったのである。


 「程昱ていいく!俺はこの情報、確かと見たがお主はどう思う!?」


 曹操は暴走しかけたが、それを自ら制して策士の一人である程昱に意見を求めた。


 「はい、劉備殿の軍師である徐福殿が持ってきた情報ですから確かでしょう。なぜなら劉備殿もそうなることを望んでいませんから」


 程昱は昨今の情勢からこの情報は信頼できるとの意見を示したので、曹操はいよいよ蔡瑁を恨み、


 「よしっ!蔡瑁に向けて一筆書くぞ!もし、この企みを実行すれば、例え太守が風魯であろうとも容赦しないとな!」


 と祐筆に手紙を書かせて蔡瑁に送り付けた。


 「な・・・!なんとっ!こ、これはぁ大変だぁっ!」


 その通告を読んだ蔡瑁は震え上がり、結局曹操との手筈通りにことを進めると約束してきたのである。


 こうして、蔡瑁の計画は頓挫した。

それはつまり風魯の太守もなくなったことを意味する。


 「え?計画を断念したって?」


 蔡瑁が自ら襄陽郊外、隆中の風魯屋敷を訪れて謝りにきたので俺は驚いたが、


 (まぁ、確かに俺が太守なんて似合わないか・・・)


 と考え快諾した。


 また、このことを妻に話すと、


 「そんなようなことになると思いましたよ」


 と言ってくれたので安心。



 そして、曹操の下に赴いた徐福は帰国を考えていた時、ある老婆に出会うのである。



 ※人物紹介


 ・程昱:曹操の参謀の一人、初めは程立と名乗っていたが、自身が泰山の山頂で太陽を仰ぐ夢を見たのをきっかけに程昱と名を改めたという。

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