第58話 蔡瑁の画策 Ⅱ

 「蔡瑁よ、お主の言うことも分かるが、わしは劉備を信頼している。だからそれを排除するなど到底できぬ」


 劉表が下した決断はこれまで通りに劉備を匿うということであった。


 「はぁ、そうですか・・・。分かりました」


 これには蔡瑁もあっさりと引き上げていったが、その心中で何かを決意したように見える。


 

 「劉表様、ご提案があります」


 後日、再び劉表のもとを訪れた蔡瑁は、久々に忠義の臣を集めて宴会を開いてはどうかと提案した。


 「ううむ、よかろう」


 劉表もそれに応じて支度を命じた。だが、彼は近頃病魔に悩まされており出席できるとも限らないので、劉備に主催してもらうことに。


 「劉備殿、来月の酒宴はそなたに主催してもらいたい」


 「はい、分かりました」


 この前、劉表から新野しんやという城を預かっていた劉備はそれに快く応じて荊州の中心である襄陽じょうように出向き、酒宴の支度をした。


 (これは荊州の人達と交流を深める好機だ)


 劉備はそんな風に考えていたが、これはあの男の策略だったのである・・・




 「何、劉表から和議の手紙が来ただと?」


 諸葛瑾からの知らせに孫権は首を傾げる。


 孫家と劉家はこの前に一時的な停戦協定を結んだが、両軍が引き上げて以降はまた緊張状態が続いていた。

 孫権も荊州奪取の意欲は盛んなので、荊州との境近くに大軍を展開して圧力をかけていた。


 しかし、これほど早く音を上げるとは思ってもいなかったのである。


 「周瑜、これについてどう思う?」


 孫権はすぐさま軍師の周瑜を呼びつけて質問する。それに周瑜は荊州の状況を察して的確に答えた。


 「つまり荊州の内情が思わしくないのでしょう」


 周瑜は言う。

劉表は近頃病状が思わしくない上、跡取り候補が蔡瑁と近しい次男劉琮と長男劉琦といるので、後継者争いが起きていると。


 「ふむふむ、それがもっともだ」


 荊州の内情を推察した孫権は孫呉がどう動くかについて考える。


 (我々が荊州を奪取するためには漁夫の利を得ることが一番か・・・)


 「孫権様、漁夫の利を得るという考え方は止めた方がいいでしょう」


 孫権の思考を見透かして漁夫の利を得ることの非を唱えたのは周瑜である。彼は蔡瑁の動向を注視しており、その中である兆候を見つけたという。


 「劉表の重鎮である蔡瑁が密かに曹操と接近しているようです。これは劉表の死後、蔡瑁の支援を受けている次男劉琮が曹操の支援をも受けるということを意味します」


 「むむ、なるほど。では状況は劉琮の方が圧倒的に有利だな」


 「はい。それで蔡瑁側が勝てば荊州は事実上曹操の勢力圏と化します」


 「うーむ、それだけは避けなければなるまい」


 「そこで、です」


 周瑜が提案したのは蔡瑁を殺害してしまおうというものだった。ただし、孫家の方から直接刺客を送り込んでは、曹操の恨みを買う。

 なので、周瑜が編み出した策略は曹操を怒らせない、


 劉備と俺、風魯を使う作戦であった―



 

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