第31話 丞相になる男 Ⅰ
俺の軍勢が李傕と郭汜を撃退してからというものの、
二人は俺たちに手を出さなくなった。
もちろん、大きな損害を被ったのもあるが、
噂によれば曹操を味方につけようと水面下で画策しているからだという。
(あの曹操が李傕・郭汜と共に攻めかかってきたらひとたまりもないな)
あの一戦の後、洛陽の郊外に領地を拝領した俺だが
やはり圧倒的に兵力不足である。
いくら領地から徴兵しても曹操の大軍には敵わないのだ。
そう悩む俺のもとにある女性が帰ってきた。
何を隠そう、俺の妻である。
「そなたには迷惑をかけたな・・・」
「いいえ、それよりも再びあなた様に会えて幸せです」
彼女は幸せそうな顔をしているが、
実際は違うかもしれない。
曹操のところの武将、于禁の妹なのだから
彼と離れ離れになって悲しい思いもあるはずだ。
俺は彼女に抱き着く。
そして、ギュッと抱きしめた。
(これからはそなたに悲しい思いはさせない・・・!)
こう俺は決心する。
だが、あの男・・・曹操が攻めてきたらそうもいかないだろう。
そこで、俺は秘かにあの家と連絡を取った。
それは揚子江の南、江南の地に君臨する孫堅の子、孫策である。
彼も父の死後しばらくは苦境に立たされて袁術を頼っていたが、
今や見事な復活を遂げて江南一帯に勢力を拡げていた。
どうやらその復活の裏にはあの玉璽があったらしい。
孫堅の子、孫策は袁術に玉璽と引き換えに兵を1千ほど貸してほしいと
お願いをする。
漢王朝の衰退を機に皇位を狙っていた袁術はその要請に応じて自分の兵を
貸し与えた。
すると、孫策は行軍の途中で
あっという間に江南一帯に勢力を回復させてしまったのである。
そして、その江南から揚子江を越えて北へ向かえば豫州、
つまり曹操の勢力範囲に達するから、曹操としても脅威に感じているのは
間違いないだろう。
その孫策と手を組めれば、いくらあの曹操でも
容易に軍勢を動かせないはずである。
「ほう、風魯大将軍から密書とな」
孫策は俺からの手紙を読み終えると、
周りに側近たちがいる中でこう呟く。
「我が孫家は父上の時の彼のあの行動がなければ今、
こうして復活を遂げていないだろう。その恩は忘れてはないぞ」
孫策としても曹操の勢力拡大を警戒していただけに、
願ってもない話だった。
とはいえ、いまだ江南の地には敵も多く、
また曹操も劉備や呂布などがいて帝を奉じるような余裕はまだないので、
孫策は今すぐには動けないとしつつも、
「時が来たら必ず呼応する所存である」
という返書を認めて俺のもとへ送らせた。
しかし、その返書を持った使者が隙を突かれて
曹操の配下に捕まってしまうのである。
※人物紹介
・周瑜:孫呉の軍師、美男子としても知られ、付いた渾名は美周郎。
・太史慈:弓の達人、彼の放つ弓矢はいつも正確であったという。
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