壊れた家

 僕には信じられなかったことがある。


 それは、父親に殴られるのは普通じゃないということ。


 僕は毎晩のように殴られ、罵倒されていたのに。


 友達はみんな、僕が冗談を言ったかのように笑っていた。


 殴られたりなんかしない、そんなことありえないと。


 この瞬間でさえも、それは本当なのだろうかと疑ってしまう。


 母親からの暴力はなかったけど、守ってもくれなかった。


 寂しい思いをさせられたし、つらい思いもさせられた。


 だけど、結局は全員が犠牲者なのだろう。


 哀れな人間が集まった機能不全家族は、音もなく静かに崩壊に向かう。


 僕は普通の家族を知らない。


 僕は普通の家庭を知らない。


 僕には家族がいない。


 いるのは、同じ家に住んでいる他人だけ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る