07


『XXXちゃんっていつも難しそうな本を読んでるよねぇ』



ある晴れた日の昼休み、いつものように図書室のお気に入りの場所で読書にふけっていると、同じクラスの女子に声をかけられた。


折角の読書の時間を邪魔されたことと彼女の甲高い声に苛立ちを覚える。それを悟られないように、笑顔を顔面に貼りつけて声のした方を向くとすぐ目の前に彼女はいつものへにゃりとした小動物のような笑顔で立っていた。



『そう?わたしは、そんなに難しいとは感じたことないけど?』


『うーん、そうかなぁ?とーっても、難しいけどなぁ』



いつものように猫を被って笑顔で応えると、彼女はわたしの持っている本を覗き込むと、うーんと難しそうな顔をした。



まぁ、そうでしょうとも。

彼女にしてみたら中学生向けの読み物でも難しい本になってしまうんじゃないかと思う。


彼女はいわゆる天然と呼ばれる人間だ。脳内お花畑のプリンちゃん。でも、本当の天然というよりは作られた天然じゃないかなとわたしは考えてるけど。


彼女、男ウケはすこぶる良いのである。目が大きくて可愛らしい顔をしていて身長が小さいから小動物みたい。そして正義感の強い天然。

男は、小動物系で正義感が強くて自分よりおバカな天然が好きな傾向があると思う。きゅるんって感じの砂糖菓子みたいな脳内お花畑な子とか。


そんな感じで彼女は男ウケはいいんだけど、女子ウケは悪い。


まず、天然過ぎて自分ワールドを持ってるから話が噛み合わない。あと、正義感も自分の物差しで測った正義感だから本当にうざい。そんな感じで、女子からは浮いている。


結果、わたしの嫌いなタイプになるわけだけど、今のところこちらに被害はないしいざこざに巻き込まれることもないから普通にその他大勢と同じように接している。


しているけど、正直な話、彼女話すのは面倒臭い。あといつわたしのイライラはMAXになるのかなってところ。



『佐藤さんももう少し簡単なものから読んでいくと理解できるようになると思うよ?』


『えー!!いやいや、そんな難しいわけわかんないの読みたくないよぉ。私には学校の勉強だけでいいなぁ』


『そう?知識はあればある程、自分のためになるよ?』


『んー、でも最低限のもので困らないだろうしー、私はみんなが教えてくれるから大丈夫だよぉ』



流石、お花畑。

何でもかんでも他人が教えてくれると思うなよ。

何事においても、相手より有利に立つには知識と情報が必要でしょう。みんながみんな、本当のことを教えてくれるわけじゃないし。


ちなみに、わたしは教えないタイプの人間だからこのことは心の中にしまっとこう。


たぶん彼女にはいらない知識⋯⋯というよりは、理解できない知識だろうし。



『そう言われてみれば、そうね⋯⋯』


『でしょう!?だからXXXちゃんもそんな難しい本じゃなくてもっと楽しい本を読もうよぉ!これ、とか!!』



わたしのあなたには必要ないものねと言う嫌味のこもった視線に気づかない彼女は、わたしの言葉を聞くと嬉しそうに笑いながら手に持っていた本をわたしの目の前に掲げた。


表紙には中生っぽいドレスをきた現実ではありえないピンクの髪の女の子とその周りをこれまた現実ではありえないような髪色の男たちが囲んでる絵が描かれてある。



『この小説ね!私が今一番ハマってる小説なの!本当に本当にキュンキュンしちゃってヤバいの!みんなイケメンだしキラキラしてるの!!絶対、XXXちゃんもハマるから読んでみてぇ!』



テンション高々に、全くこの物語の説明になってない言葉を言いながら、ずいっとわたしに本を押し付けてくる。


いや、明らかにわたしの好みじゃない上に何も収穫の無さそう小説なんだけど。



『え、ええ、時間があれば読んでみるね?』


『ふふー!読んだら感想教えてねぇ!誰がタイプだったとか色々!ちなみに私のタイプは第一王子なのぉ』



絶対!絶対読んできてね!!と念を押すようにもう一度言うと、彼女はわたしにこの本を押し付けて図書室から出て行った。


一体、なんだったの?

なに、読んでみてってこんな頭の悪そうな話をわたしに読めと??

つか、お前のタイプなんて興味ないわ。

第一王子ってことは、この真ん中にいる男の人のことか。絶対わたしのタイプではないな、見るからに俺様チックな男でしょうまじ無理。殴りたくなる。


他の男もパッと見るかぎりタイプじゃなさそう。

強いて言うなら、裏表紙に書かれてる美人さんがタイプかなぁ。なんとなくわたしと似た感じがするのよねぇ。



まぁ、とりあえず、気が向いたら読むかなぁ。

向くことはないと思うけど。





















なぁんで思ってました。

アレから、毎日のように彼女に絡まれるようになりました。

あの本は読んだのかと。


全く読む気起きなくて読んでいよね。

そうなると毎日毎日彼女に絡まれるわけでいい加減鬱陶しい。

そろそろ、猫被って相手するのも怠くなってきた。というか、そろそろ殴りそう。


なわけで、読んでみることにしたけど⋯⋯。




この小説、クソだなってことくらいしかわからなかった。


貴族の庶子だった平民の女の子が学園で王子様に見初められて王妃になるって話なんだけど。

逆ハーっていうの??出てくる男はみんなこのヒロインが大好きってありえないだろ。

しかもなに、王子は婚約者いたのにヒロインと浮気してくっつくし、婚約解消にすれば良いのに破棄するし?

つか、ヒロインも1人と言わずに多数の男といちゃつくしもう、ただのビッチだろ。

悪役令嬢も、なんでこんな王子が好きなわけ?もう見限ろうよ。馬鹿なの??こんな馬鹿が王様になんかなったらこの国は終わりだよ。

平民だった女が王妃様なんて務まるわけないだろ。そこは妾とかそんなのにしときなよ。


って言う、なんとも言えない感想しか感じなかった。



てか、題名からしてバカみたいな題名だしさ。






なんなの、《恋するシンデレラ~私の心を射止めるのは誰?》って。







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