03



背後を振り返ると、そこには見た目からしてお花畑な頭の持ち主だろう女が立っていた。


ふわっと緩く巻かれた茶色い髪に清楚なワンピースにあまりヒールの高くないパンプス。化粧はナチュラルに仕上げられてるけど、多分今までそんなに化粧はしたことなかったんじゃないかなぁって感じの出来栄え。言うなれば、大学デビューしましたって感じの雰囲気が漂う感じ。


たぶん、あまり恋愛したことなかったタイプ。このバカが適当に口説いてそれでその気になっちゃって、お洒落を頑張ったんじゃないかな。


まぁ、とりあえず、面倒くさいから無視の方向で。


わたしは、叫んだ女を一通り眺めると、視線を幼馴染みの方へと戻した。またか、みたいな表情で女を見た幼馴染は、次はわたしへと視線を向けてどんまい、みたいな表情を作った。


いや、なんでわたしが巻き込まれる前提みたいな表情してんの。絶対、こんな面倒くさそうなことに巻き込まれたくないわ。

わたしは完全無視の方向で。こういうのは当人方で解決してください。


わたしにへばりついたままのバカへと視線を向けると、へらりと笑いながらなんともないことのように女へと言葉を投げかけた。



「何してるのって、高校の同級生たちと飲んでるだけじゃん?」


「なっ⋯⋯飲んでるだけなら抱き合う必要ないじゃない!!」



いや、ご尤もな意見だわ。

ただお酒飲むだけなら、こんなベタベタ引っ付かなくてもいいものね。

てか、抱き合ってないし。一方的にわたしが抱き着かれてるだけなんだけど。



「必要か必要じゃないかは俺が決めることじゃん?久々に会ったんだから癒されたいじゃん?だから、こうやって充電してんのー」



みたいな感じに言いながら、わたしの肩にグリグリと額を押し当てるのやめい。彼女(仮)の顔が般若みたいになってんじゃん。あと、お前と会うの久しぶりじゃないからね。先週末うちに来てゲームしてただろ。



「なんで!癒しならわたしがいるじゃない!!!てか、いつまでくっついてんのよ離れさなさいよ!?!!」



いや、彼女じゃ癒しにはなんないでしょう。重そう。好意が重そう。嫉妬深くていつも会ってないとダメみたいな??相変わらず、女見る目ないんだか、何なんだか。なんで、メンがヘラってるようなのばっか引っかけてくるかなぁ。もっと後腐れの無いようなのつかまえてくればいいのに。


なんて、ぼーうっと考えていると、後ろからかつかつヒールの音を鳴らして近寄ってきた女に、巻き髪にしていた長い髪をぐいっと引っ張られた。振り向くと女は物凄い顔をしてた。それなりに可愛らしい顔してんのにね。台無しだわ。



「痛い⋯⋯」


「あんたは、さっきからなんで人の彼氏にずっとくっついてんのよ!!?人の彼氏に色目使ってんじゃないわよ!」



いや、くっついてんのわたしじゃなくてあんたの彼氏(仮)だから。つか、こいつに色目使う意味。こんなバカになんでそんなの使わなきゃなんないの意味不明なんだけど、頭沸いてんじゃないのこの女。



「何よ!その目!!!ばかにしてんの?」


「⋯⋯いや?」


「ぶはっ⋯⋯、っ」



バカにはしてないけど考えていたことが表情に出てしまったのか、女が余計に激怒してる、わたしの横で女の言葉でわたしの顔を覗き込んだバカは笑った。

余裕綽々な感じが本当にむかつく。この流れ、全部わたしに片付けさせようとしてるんじゃないのこいつ。



「ばかにしてるじゃない!!!このクソ女!!!」



そう言って女は、カウンターの上にあったカクテルグラスを引っ掴むとわたしの顔面目掛けて中身を掛けてきた。


ぱしゃっ⋯⋯という音とともにわたしの顔は甘ったるいカクテルで濡れる。

わたしの前には、ざまぁみろと言った感じで口角をあげてる女。横にはカクテルがかかる寸前にわたしから離れてこれから起こることを楽しんでいるようなバカ。カウンターを挟んだ背後からは、あちゃーっと言った感じに色々察して諦めてる幼馴染。








——ぷつん、と何かが切れる音がした。






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