<48> 告白

綾子の家に着くと、陽一は香織を抱えてゲストルームに向かった。


綾子に、布団をめくってもらい、ベッドに香織を下ろすと、そっと布団を掛けた。

そして呆れたように香織を見た。


綾子が水を取りに行っている間、布団の温もりを感じたのか、


「・・・う・・ん・・・」


香織は薄っすらと目を開けた。


「・・・目、覚めた?」


陽一は香織の顔を覗き込んだ。


「ずいぶん飲んだみたいだな。かなり酒臭いけど。そんなに辛いことがあったんだ?」


意地悪そうに笑って香織を見たが、香織は焦点が合っていないようだ。

ぼーっと陽一を見ている。


「あれ・・・?陽一さん・・・?」


香織は手を伸ばした。

その手は陽一の頬に触れた。


「わぁ、陽一さんだぁ!」


香織は起き上がると、陽一に抱きついた。


「お、おい!」


突然の行動に、陽一は動揺して香織の肩を掴んで自分から離した。


「へへへ~、陽一さん~~、久しぶりですねぇ~」


無理やり剥がされると、今度は陽一の顔を両手で包んだ。

そしてトロンとした瞳で陽一を見つめて、


「ふふふ~、私ね、本当は陽一さんの事、大好きなの」


そう言うと、陽一の唇に自分の唇を強く押し当てた。


「!」


「でもね~、それは内緒なの~。誰にも言えないの」


陽一から唇を離すと、頬を包んだまま、切なそうに顔を見つめた。


「だって、私が陽一さんを好きだと、お母さまが困っちゃうでしょ?陽一さんだって、もう素敵な人がいるもんね・・・。陽一さんも困っちゃうもんね」


香織の目じりから涙が流れた。


「だから、内緒なんだ~」


そう言うと、もう一度、陽一に口づけして胸に抱きつくと顔を埋めた。

次の瞬間、ぐう~っと鼾が聞こえた。


「はあ~~」


陽一は溜息を付くと、香織の頭を撫でた。


「だからお前、そういうのは素面な時に言えよ、まったく」


香織が起きないように優しく自分から離すと、そっと布団の中に入れた。


「どうせ、明日には覚えていないんだろう?」


そして、香織の目じりの涙を拭うと、顔を近づけて口づけしようとした。

その時、後ろから後頭部を叩かれた。


「痛っ!」


「寝込みを襲うなんて最低な真似しないでちょうだい」


振り向くと、水のペットボトルとコップをのせたお盆を持っている綾子が立っていた。


「・・・先に襲われたのは俺だけど」


「お黙んなさい」


綾子はそう言うと、ベッドと陽一の間に割り込んで、サイドテーブルにお盆を置いた。

そして、シッシッと手を振って陽一を下がらせ、香織に掛かっている布団を丁寧に掛け直した。


「ずいぶんそいつを気にかけているんだな」


陽一は叩かれた頭を摩りながら綾子を見た。


「この娘はね、私の、お母さんのお友達の大切なお嬢さんなの。あなたが手を出していいような娘じゃないのよ」


もう手を出しちゃったけどね、という言葉を飲み込んで、


「でも、こいつの俺に対する熱い思いを聞いただろ?」


大げさに両手を広げて、肩を竦めた。

そうして、ニッと意地悪そうな強気な笑みを綾子に向けた。


「ということで、俺もこれからは本気で行くから」


「何言っているの!」


「だって、そうだろ?ここまで聞いて黙っているなんて男が廃るってね」


綾子は軽く陽一を睨みつけると、香織に目線を落とした。

そして、辛そうに香織の前髪を撫でた。


「でも、お母さんは二人を応援できないわ・・・。あなたのためにも、この娘のためにも・・・」


「別に応援なんてしてくれなくっていいよ、邪魔さえしなければ。それが一番迷惑なんで」


陽一は勝ち誇った笑みを向けると、


「じゃあ、そいつをよろしく。俺はもう帰るよ」


そう言って踵を返し、部屋から出て行った。

玄関で靴を履いて、誰もいない廊下に振り向くと、


「押してダメなら引いてみなってね。よく言ったもんだな」


そう呟くと、ニッと笑って満足げに外に出て行った。

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