<18> 職権乱用?
香織はあと一歩で、恋と言う名の沼にポチャーン!と落ちるところだった。
しかし有難いことに、あの後、陽一に急な出張や会議やらが立て込み始めた。
そのお陰で数日間、お互い顔を合わさずに済んだのだ。
その数日のうちに、香織は急いでギアをバックに入れ、気持ちを定位置まで戻した。
しかし、油断したところに事件は起こった。
いや、香織にとって事件だっただけで、実際は、計画が遂行されたと言った方が正しい・・・。
☆
「原田さん、ちょっといい?」
香織は部長に呼び出され、空いている小さな会議室に通された。
席に座ると、部長はおもむろに口を開いた。
「原田さん、来月1日付で異動になったよ」
「え?」
「えっとね、部署は総務部第一課だ」
「総務部第一課・・・」
香織は軽く眩暈がした。
総務部でも第一課と言えば、秘書室や役員との絡みが多い部署だ。
正直、嫌な予感しかしない。
「そういうことだから、異動までにきちんと引継ぎのマニュアルを作っておいてね。あ、もちろん引継ぎの時間は取るから、そこは安心して」
「・・・はい」
「それと、先方の部長には挨拶は入れておいて」
「・・・はい」
話が終わると、香織は急いで自分のデスクに戻り、スマホを片手に、一目散に女子トイレに駆け込んだ。
(お、お母さまに連絡しなきゃ!)
綾子とは何かあったら連絡を取り合う約束になっている。
そのためにL●NEにお友達登録までした。
よもや、こんなに早く使うことになるとは・・・。
『来月1日付で総務部第一課に異動の辞令が出ました!
取り急ぎ、ご報告まで』
(これでよし!)
本当のところ、この人事異動に陽一が絡んでいるかどうは分からない。
自分の思い過ごしかもしれないし、自惚れかもしれない。
しかし、総務部第一課となれば、何かしら役員である陽一と接点ができることは確かだ。そう考えると奴は限りなくグレーに近い。
綾子に連絡を入れておくことに越したことはないだろう。
(それに・・・)
これを知ったら、もしかして綾子の圧力で異動は取り消されるかもしれない!
香織は淡い期待を胸に自分の席に戻ると、一人の女子社員が香織の部内を挨拶して回っていた。
おそらく、香織と入れ違いにこの部署に異動になる社員だろう。
(え・・・。何、あの子・・・。めっちゃ可愛いんですけど・・・)
部内の男性陣は、みんな揃って鼻の下を伸ばしているように見える。
いや、絶対伸びている!
(これじゃ、万が一異動が覆っても、私、逆にヒンシュク者じゃない?)
香織はガックリと肩を落とした。
そして、ズルズルと重い足取りで、自分も総務部第一課に挨拶に向かった。
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