二、石の博士
人工の太陽は、夕暮れという機能はありません。
夕暮れというものを、アンドロイドは見たことがありません。
彼のいる惑星は、自分でくるくると回ることができないので、明るいお星様が地面に落ちることはありません。
「ねえ、博士、博士。お星様が落ちるなんて本当なんでしょうか。
私にはいまじねいとできません。私は博士とたくさんたくさん、お星様を数えましたが、博士やミューエル様の話していたように、空が燃え上がるように赤くなるなんて、見たことがありません。数だって変わったことがありませんよ。」
さらに彼は言葉を続けます。
「いつだったか、博士は私に情報をいんぷっとしてくださいましたね。
もし本当に、お空が真っ赤になるのだとすれば、私たちはきっとひとたまりもないのでしょう。
茫茫と、音を立てて燃えて、きっと後には何にも残らないのでしょう。
ああ、でもお空が燃えるのだとすれば。牧場は消えてしまうかもしれませんが、いい畑になるかもしれませんね。
焼畑という文化があると、私にあなたがいんぷっとしてくれたのをしっかりと覚えているのです。」
そう言い切って、彼はまるで人間のように誇らしげな顔をして見せました。
彼は一通り、語ると発声器官、口を閉ざしてまた手を動かします。
アンドロイドはその場で自身の解析回路に流れていく分析結果、所謂想像したことを出力するだけで、独り言を言っているなんてと以前に新しくきた博士に顔をしかめられても全く恥ずかしいという気持ちが湧いてきませんでした。
それがアンドロイドと人間の差なのでしょう。
しかし、恥ずかしい、と言うものがないのは幸運だったかもしれません。
胸が張り裂けるような痛みなどアンドロイドにはなく、ただ決められた行動を遂行することが彼の幸せだったのですから。それの邪魔になる恥ずかしさなどなくてよかったのです。
そうして、アンドロイドは一万と数千回と数十何回めの石になった博士への報告を済ませて充電へと向かうのでした。
星とうさぎと @gogogo21
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