星とうさぎと

@gogogo21

一、朝の牧場

登場人物・・・

博士:アンドロイドの作り主

アンドロイド:博士に作られた人工物。少年の見た目を持つ。

ブルカニロ博士:博士の後に赴任してきた新しい博士。朝になく羊のような優しげな声をしている。




「やあ、やあ。おはようゴーシュ、おはようセロ。今日もいい朝だねえ。」

カラカラと、藁束のような声がぼやぼやとひびきます。

あたりは、ちょうど人工太陽が燦燦と照っていて爽やかな朝のいい匂いが漂っていました。

おおよそ、5ライカベルタル(*宇宙表記・・・2000年台日本でいうところの東京ドーム一個分)

の、コロニーと博士のクラス居住区が彼の城です。


のびのびと、羊たちが羽を伸ばしたり、尻尾のトグロを伸び縮みさせたり、跳ねたり、爪を研いだりと好き勝手にくつろいでいるのを、異常がないかしらん?と注意深く観察をしながら進んでいきます。

道の途中にいる一際大きな羊二匹が、セロとゴーシュと呼びかけられて めえ、と間抜けな声をあげます。

アンドロイドは、帽子を少しあげて挨拶をすると、もっともっと先へ足を進めていきます。


「ううん、もうそろそろ毛を刈ってやらないとなあ。羊たちの毛が伸びる速度は1日で毛布3つ分だから、2日も置いておくと皮膚病になってしまうんだから、困ったもんだ。」

アンドロイドは、元々生物の管理をおこなう機械であったので、羊たちの表面を見るだけでその時のバイタルがわかるのでした。

とはいえ、人工太陽が3回取り変わるくらい昔に博士に不思議な機械を取り付けられて、人間の考えていることやどう思うのか特定の状況で胸が苦しくなるようにされてから、前ほどくっきりと物事を理解できなくなってしまったので、時々羊の毛が山のように盛り上がってしまうのを見逃したりしてしまうこともあるのでした。

そんなこんな、頭をくるくる回しながら進んでいくとコロニーの一番奥へと辿り着きます。

アンドロイドは、人工皮膚をゆるりと緩ませるように、皮膚の下の機械を動かして笑みの形を作りながら云いました。

「おはようございます博士。今日もいい天気です。博士はご機嫌いかがでしょうか。」

返答はなく、静けさが横たわり続けます。

少しの間、静かにした後またアンドロイドは口を開きます。

「今日も身辺のお世話に参りました。気持ちが良ければいいですが。」

転々と石の周りに生える赤、紫、濁った灰色の葉をつけた体をゆすり胞子を飛ばす草をむしりながら、アンドロイドは思います。

擬似風(*自転をしない惑星は風が吹かないため)が偽物の肌を撫でていく感触は、博士が昔自分を撫でてくれたときの感覚に似ていると。

アンドロイドは、無意識に機械の顔を動かしながら笑います。

「博士、今日もきれいになりました。」

物言わぬ石がじっと、静かに重々しくコロニーの最奥部に佇むだけでしたが、それでもアンドロイドは満足げでした。

さあて、今日も一日がんばろう!と、声を一人、一つでにあげて、彼は拳を振り上げます。

毎日、毎朝。

これがアンドロイドにとっての日常でした。



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