第37話 監禁場所からの脱出

 ここからは少しの間会話が出来なくなるので、しっかりと3人の目を見て声を掛けます。


「では今から魔法を使いますわよ?声が聞こえなくなるのでハンドサインをよく見て動いてくださいまし」


 そう言って全員に『消音』をかけ、ハンドサインを送って部屋の外へと出ると、階段下に3人を待たせて1人で階段上へと先行し、大丈夫な事を確認してから3人を呼びます。

 そこで一旦今まで持っていた明かりの魔道具をしまい、代わりにやんわりと光を放つ小さな石『光石こうせき』を3人へと渡しました。この光石、普通だと明かりにはならない様なモノなのですが、今の明かりを使えない状況だと役に立つ代物でした。


(何故こんな物まで入っていたのか謎ですけど助かりましたわ)


 エスパーみたいなノワールに感謝をし、ハンドサインを送って廊下を進んで行きます。

 事前の偵察通り盗賊団全員が寝入ってる様でしたが、それでも不意に起きてこないかと心臓をバクバクさせながら廊下を進み、玄関バルコニーまで到達しました。


(よし、ここも大丈夫そうですわね)


 一旦全員で玄関バルコニーへと進むと3人を物陰へと待機させ、1人で様子を伺いながら扉へと向かいます。

 扉へと到着するとそぉ~っと少し扉を開けて外を確認し、問題が無さそうだったので3人の元へと戻り、全員で扉へと向かい外へと出ると音が立たない様にそぉ~っと扉を閉め、先ずはこの場から離れる為に取りあえず建物の正面へと進みます。

 暫く進んだところで立ち止まり、周りを確認して大丈夫そうだと判断した所で魔法を解除して安堵のため息を吐き出します。


「ふぅ・・・取りあえず脱出は成功ですわね」


「やりましたねマシェリー様!」


「流石ですお姉様!」


 マルシアとサマンサは私と同じく気が抜けたようでしたが、心配性のシーラは未だソワソワと周りを気にしていました。


「ま・・・マシェリー様、ここからは街道を目指すんですよね・・・?方向はどちらに行くんですか・・・?」


 シーラは街に着くまでは安心できないのか、次にするべき行動を訪ねてきます。それを聞いて気を抜いている場合ではないと考え、気を引き締めます。


「そうですわね。ええっと・・・真っ直ぐ行くと東ですのね。因みにですが、誰かここが解るという方は・・・まぁいませんわよね」


 アイテムボックスからコンパスを取り出し方向を確認した後、3人に現在地を尋ねてみますが、全員が首を横に振りました。

 現在地に関しては期待をしていなかったので、やはり適当に方向を決めて進むしかなさそうです。


「暗いから遠くの山等も確認できませんし・・・そうですわね・・・北東にしようと思いますがよろしくて?」


 このまま東に進むとカラーズが追って来た時に見つかる確率が一番高いので却下として、残った方向ならどれでもよかったのですが北東に進む事を提案しました。

 マルシアとシーラは特に異論はなかったらしく頷きましたが、サマンサが小さく手を上げて何か言いたそうにしていたのでどうしたのかと話を振ってみます。


「どうしましたのサマンサ?何か名案があったりしますの?」


「すいませんお姉様、唯の質問です。えっと・・・街道や街を見つけるまで歩き続けるんですか?私あんまり運動は得意ではないので、そこまでの距離を歩けないかも・・・」


「あ・・・私もです・・・」


「私も運動はしていますが、そこまで長時間は歩けないかもです」


「あー・・・」


 全然考えていませんでしたが、私達は8歳若しくは9歳のお嬢様、体力は激低です。

 そんな私達がいつまでも森を歩いたりすることは無理だという事を失念していました。

 しかも何時もなら今の時間は就寝中、今は昼間眠らされていたのと異常事態で脳内物質が出ているので眠たくはありませんが、じきに眠気が襲ってきても不思議ではありません。


「理想を言えば、明るくなるまで歩いて明るくなったら何処かに身を潜めて暗くなるまで眠る、で行きたいのですが、無理ですわよね?なので歩けるところまで歩いて、無理そうになったらそこで休むといたしません?」


 緊急事態ではありますが、あまり無理な行動をして動けなくなっては本末転倒、やれるようにやるしかありません。

 3人もそれが解っているのか神妙そうな顔で頷いてくれたので、私も頷き返します。


「なら早速歩きますわよ。まだここはあの建物からさほど離れていないので、流石にゆっくりするのは怖いですわ」


「「「はい」」」


 3人の返事を聞いた後アイテムボックスから明かりの魔道具を取り出し、私を先頭に森を歩きだします。


 ・

 ・

 ・


 小休憩をはさみつつ森の中を進む事数時間、私達の心はすっかり弱弱しくなっていました。


(出る方向も解らない所在不明の夜の森、甘く見ていましたわ・・・)


 歩き始めた当初は何ともなかったのですが、延々と終わりが見えない夜の森を歩いていると、一歩足を踏み出すごとに不安も同じだけ積み重なっている気分になってきました。

 これは私だけでなく他の3人も同じだった様で、何回目かの休憩の後からは縦一列ではなく、2人1組で手を繋ぎながら歩く様になっていて、しかも私と手を繋いでいると少し安心するらしく、休憩ごとにローテーションしてペアを交代していくことになっておのずと休憩の頻度も上がってしまい、進む速度がかなり落ちてしまっていました。


(多分大分建物から離れましたわよね・・・?なら進むのは明るいうちに変えた方がいいのかしら・・・いやそれにしても脱出が発覚していない今のうちに距離を稼ぐべきですわよね?)


 他の3人よりはましですが、私の心も大分弱って考えが揺らいできていました。そのたびに3人を無事に返さなくてはいけない使命感や、レッド達への怒り等で心を奮起させるのですが、それでもやはり心は弱っていきます。


 そんな時でした・・・


「・・・っ!」


 私の背筋にゾワリとした感覚が走ったのです。

 咄嗟にその場で立ち止まり、何となく視線を感じた気がしたのでそちらへと明かりをかざすと・・・闇の中に光る2つの光が見えました。

 それに他の3人も気づいたのか、私達の緊張の度合いが一気に高まります。


 向こうも気づかれたことに気付いたのか、ゆっくりとこちらへと近づいてきました。


 やがて相手が明かりの範囲内にまで近づいてきたので、その正体が判明したのですが・・・それは・・・


「猫・・・?いえ、あれは・・・っ!」



 闇の中より現れたのは一匹の猫の様な生物・・・魔物でした。



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 マシェリーより:お読みいただきありがとうございますわ。 

 「面白い」「続きが読みたい」「夜の森は大人でも怖い」等思ったら、☆で高評価や♡で応援してくだされば幸いですわ。

 ☆や♡がもらえると 夜の森へご招待いたしますわ。


 マシェリーの一口メモ

 【基本的にはファンタジー世界ですので『光石』の様な不思議物質は多数存在しますの。例えば熱を発する『火石』や微かに水がでる『水石』等ですわ】

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