第36話 行動開始
「あ・・・あの女っ・・・グギギィ!」
「マシェリー様!お気持ちは解りますがお静かにっ!」
「そういう貴女ももうちょっと声を落としてくださいよマルシア様」
「うふふ・・・けどこれは酷いです・・・えぇ・・・」
思わずレッドとイエローにプッツンしてしまいそうでしたが、マルシア達に止められて何とか耐えていましたが・・・グギギィ!
実は私達、脱出作戦の為に怯えているふりをしていたのです。
それに奴らはまんまとかかり、油断してくれたのは良いのですが・・・
「キィィー!いくら何でも舐めすぎですわ!いくら何でも壺はないでしょう!壺は!」
奴らは私達をいたぶって楽しんでいるのか、トイレに行かせてほしいと言ったら壺を渡してきて『そこにしろ』と言ってきたのです!
それに食事もそう、パン1個と水を投げ渡して『これ1日分な?』って完璧舐めてます!
思い出したらまた怒りが再燃して来たのですが、必死で宥めて来る少女達の姿を見ていつまでも怒っている訳にもいかないと心を落ち着かせます。
「すぅ~・・・はぁ~・・・。ふぅ・・・ごめんなさいね3人とも、迷惑を掛けましたわね。もう落ち着いたので大丈夫ですわ」
私を止める為に体にしがみ付いていたマルシア達を剥がすと立ち上がり、一応パンと水袋を回収してアイテムボックスへと放り込むと、代わりにクッキーの様な携帯食とドライフルーツ、水の入ったカップを人数分取り出して配ります。
「少々あれですがこちらを食べましょう?・・・それにしてもあの方達、まんまと騙されてくれましたわね。おかげで邪魔だった拘束を一々直さなくて済みますわ」
「はい、上手く行きましたお姉様」
このカラーズという盗賊団、私達の様な上位貴族を攫えたりするくせに、やはり基本的には3流盗賊団なのか行動に詰めが甘い所が散見されます。
普通だとこんな盗賊団直ぐに討伐されそうなものですが、原作に出て来るまでは大丈夫という運命とかなのでしょうか?
そんな事を考えながら携帯食をモソモソと食べていたのですが、パサパサした生地に口の中の水分を奪われて、ついつい水を多く飲んでしまいます。
すると勿論、飲んだ分だけ出したくなるわけで・・・
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「私ここを無事に脱出出来たら・・・この盗賊団の壊滅をお父様にお願いいたしますわ」
「「「同じくです」」」
私達の心は今かつてないほど1つになっていた気がします。だって壺ですよ?森の中とかでするよりも抵抗がありましたよ?
っと・・・この怒りは後々に取っておく事にして、それよりも今は無事にここを脱出する事が先決です。
「さて、そろそろ脱出計画について話し合おうと思いますが・・・よろしくて?」
「「「はい」」」
私が少しトーンを変えて喋ると、それを理解したのか彼女達も顔を引き締めて私の言葉に集中する姿勢になりました。
「やる事を大まかに話すと、まず私が魔法を使ってこっそり偵察、後にその情報を元にここを脱出し何処かの街へ、そして街へ着いたら何方かの家へ連絡を取るという感じですわね」
流れをザッと話すと、3人は私が偵察をする事を心配しますが、正直これは他の者がいると危険なので1人でやらざるを得ないのです。
3人は微妙な表情を見せていましたが何とか押し切り、次に私は先程話した内容の細かな所を話していきます。
それは脱出する時に使うハンドサインだったり、追手を巻く為にどうするかだったり、色々です。
それらを1時間程かけて話すと、私はすばやく偵察を開始しようと準備をします。
かなり急ぎ足ですがこれはあまり猶予が無いと見ているからで、私の推測だと短くて3日、長くても1週間程だと考えています。
実際にはもっと短かったり長かったりするかもしれませんが、どちらにせよ早めに脱出はしたい所なので急ぐとします。
「よし・・・では行くとしますわ」
頭の中で偵察のプランが固まったところで出発する事にし、3人に見送られながら私は扉へと向かいます。
向こう側の様子を伺いつつ扉を動かすと、ここでも油断しているのか鍵がかかっていませんでした。
(鍵がかかっていたら魔法で壊さなきゃいけなかったかもしれないので良かったですわ)
レッド達の適当さに感謝をしつつ、闇魔法を発動させて見つかりづらい状態にしようと、魔法の本を思い出しながら魔法を使っていきます。
「『消音』。『闇纏い』。っと、行ってきますわね」
無事に発動した闇魔法にホッとしつつ、行ってくると挨拶をすると、魔法の効果が聞いているのか3人の反応が薄かったので出発をする事にします。
(思わず効果のほどが確かめられましたね・・・っと、集中集中)
この偵察も見つかったらアウトなので、余計な事を考えない様にして集中して様子を見ていきます。
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「解除っと・・・。戻りましたわ」
「・・・っ!びっくりしました!」
「心臓に悪いですわお姉様!」
「・・・ぁばば・・・」
無事に偵察が終わったので部屋へと戻り闇魔法を解除したのですが、3人はいきなり現れた私にかなり吃驚した様です。
「失礼いたしましたわ。しかし凄いですわね闇魔法・・・」
「闇魔法ですか・・・?あぁ~・・・」
「あれ・・・?お姉様、闇魔法は誰に手伝ってもらってるんですか?魔法を使うには協力が必要なんじゃ?」
「・・・そういえばそうですね・・・魔法1人で使ってます・・・やっぱり・・・」
(あ・・・そういえば何故か闇魔法は1人でも使える事を説明してませんでしたわ。けどこれもイマイチ理由が解りませんし・・・んー・・・)
何も考えずに闇魔法を使っていましたが、そういえば闇魔法についてはさらっとしか話していませんでした。
しかしここで答えを言わないとまたシーラがネガティブになりそうですし、どうした物かと考えた結果・・・また私は適当に嘘をついてしまいました。
「闇魔法は・・・これも愛ですわ!」
「「「え?」」」
「黒の魔力はノワール、私の使用人兼護衛に手伝ってもらってますの」
「「「はい」」」
「実はね、彼女・・・病的に私を愛しているんですの」
「「「・・・!?」」」
「彼女は常々、私を『食べたい』やら『食べられたい』等と言い、挙句の果てには『お嬢様になりたい』とまで言っていましたわ」
「「「・・・」」」
「それほど大きすぎる愛ですの。その愛は時空を超えて私に繋がっているのですわ」
流石に今回の嘘はちょっと酷すぎるかもしれないと感じ、失敗した!と思っていたのですが、何故か3人は『あの人パネェわ!』みたいな顔をして頷いていました。
(純真な心を弄んでいる様で、私ちょっと胸が・・・)
胸に痛みと少しのドキドキを感じつつ、本題へと話を戻す事にします。
「取りあえず闇魔法の事は置いておき、偵察結果ですわ」
「「「・・・!はい!」」」
偵察結果を3人へと共有する為、アイテムボックスから紙とインクとペンを取り出し簡易的な図を書きだしていきます。
「まず今いる部屋ですが、何処かの森の中にある屋敷の地下みたいですわね。所々老朽化が進んでいるように見えたので、元は貴族の隠れ屋敷だったのかもしれませんわ」
カリカリと紙に『現在地』と四角い枠の中に書き、前方に一室、その先に階段を描きます。
「この部屋の隣は小さな部屋になっていて、その先は階段でしたわ。鉄格子がありましたが鍵はかけてありませんでしたわね」
階段の先へ長い廊下と幾つもの部屋、廊下の先に玄関バルコニーと階段を描いて。
「階段を上がるといくつかの部屋と廊下の先に玄関バルコニー、2階に続く階段がありましたわ。階段先の部屋の中は覗いてないのですが、恐らく何室かは人が寝ていましたわね。2階も同じく何室か。因みにおバカなのか見張りを立てていませんでしたわ」
最後に玄関の外に森と書いて完成です。
「なので私が闇魔法を全員にかけて1階の廊下を抜け、玄関から外に見える森へと出たら取りあえず・・・って感じですわ。流石に森は見てきていませんからそこからはぶっつけ本番、方向を決めて進み街道をめざすしかありませんわ」
そこまで言って3人の顔を見ると不安と緊張が見えましたが、とにかくやるしかありません。
私は3人にガバっと抱き着き「大丈夫、私達ならできますわ」と、励ます様に囁くと立ち上がります。
「丁度今、敵は油断しきって全員寝ていますわ。行きますわよっ!」
些か性急過ぎるかもしれませんが、この後チャンスが来るとも限りません。私は3人にそれを説明し、行動を開始し始めることにしました。
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マシェリーより:お読みいただきありがとうございますわ。
「面白い」「続きが読みたい」「いよいよか!」等思ったら、☆で高評価や♡で応援してくだされば幸いですわ。
☆や♡がもらえると 私達が無事に帰れますわ。
マシェリーの一口メモ
【『消音』は自分の出す音を消す魔法、『闇纏い』はその名の通り、闇を纏い夜闇へと紛れる魔法ですわ。】
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