第35話 マシェリー流演技術

「いきますわよっ!雷魔法・・・『放電』っ!」


 周りに見える魔力と一体になる様な感覚で魔力を操作しながらキーワードである呪文を唱えると、魔力が私の操作を離れて自動的に動き出し前方へと突き出した右手へと集まります。


(魔力が勝手にっ!?こ・・・このままでいいんですのっ!?)


 私が実際に魔力を使うのはこれが初めてなので、ここからどうしていいのかがイマイチ解らず、流れに身を任せようと思いましたが・・・


(思ってたより魔力が集まりすぎている気がしますわ!)


 私が当初思い浮かべてたイメージでは『軽く息を吸ってから吐く』位でしたが、今の魔力が収束している感じは『限界まで息を吸っているのに無理矢理空気を詰め込んでいる』といった感じで、明らかにやり過ぎに思えました。

 なので自動的に動いている魔力へと働きかけ、集まった魔力の大部分を体へと戻していきます。


(こ・・・これくらいで・・・っ!)


 当初のイメージ位まで魔力を減らした時、右手に集まった魔力がスッと抜けた気がした瞬間・・・それは起こりました。



『パリパリパリパリッ!』



 それは正に『放電』といった感じで、雷が手のひらから30cm程パリパリと音を立てながら放出されていました。

 実際この魔法を見たのは初めてですが、3人の様子を見る限り成功なのではないでしょうか?


「マシェリー様が本当に魔法を・・・」


「う・・・うそ・・・お姉様・・・」


「・・・凄いです・・・」


 3人は3人とも口をポカーンと開けて私の手のひらから出ている雷を見ていました。

 正直私も同じ様にポカーンと眺めたい所なのですが今が勝負所、口を回して畳みかけます。


「ご覧になって?この様に私は魔法が使えますの。と言っても魔法を使うには先程言った通り貴女達の協力が必要ですわ。だから貴女達が協力してくれるのなら私が貴女達を守って見せますわ!」


 そう言った後更に彼女達の心を動かす為、マルシアとシーラへも体をくっつけてそれぞれの色の魔法を使って見せます。

 赤の魔力では『着火』、青の魔力では『水生成』と、火と水の魔法の極々初歩的な魔法でしたが、今の彼女達の心を動かすには十分でした。


「わぁ・・・火魔法だ!確かにこれなら・・・!」


「雷魔法は対人だと効果的だといいますし・・・いけそうです・・・」


「・・・私の水は逃げるのには向かないけど・・・魔法が使えるなら大丈夫そうです・・・」


 怯えて固まっていた彼女達の動きは再び動き出し、これなら私が逃げようと言ったら賛同してくれそうでした。


「ただし・・・このままここで待っていては多勢に無勢、いずれは数で押されてしまいますわ。ですからここを脱出いたしましょう?」


「「「・・・」」」


「大丈夫、私を信じて。きっと助けて見せますわ」


 まだ微妙に不安そうな彼女達への最後の一押しとして『助ける』と言い切り、彼女達をぎゅっと力強く抱きしめると、彼女達の腹も決まったのか頷いてくれました。


「ありがとうございますわマルシア、サマンサ、シーラ」


(よし、これで『逃げない、動きたくない』と言われることはないですわね。後はなんとか計画を練って・・・)


 次はどうやって逃げるかを考えようとした時、シーラがまだ不安なのか、こんな質問をしてきてしまいました。


「・・・そういえばマシェリー様・・・マシェリー様が精霊の儀を行っていないのにも関わらず魔法を使えるのは解ったんですが・・・魔法をまだ使えない私達の協力が必要って本当なんですか・・・?本当は私達なんか必要ないんじゃ・・・」


(うっ・・・ここに来てシーラのネガティブが発動ですの!?)


 実はシーラ、偶に感情がネガティブになったりする、感情が落ち込みやすい子なのです。

 普通の状況だと時間をかけて励ましたりして元気づければいいのですが、今は他の2人も感情が落ち込みやすい状況なので、ここでネガティブモードを発動されると、下手をしたらマルシアとサマンサへと連鎖してしまうという痛い状況です。

 なので手早く効果的に励まさなければいけないのですが・・・


(実の所魔法を使うのに協力が必要なのは確かなのですが、その理由が私にも解っていないので何と説明したらいいのかが難しいですわ!)


 未だ何故魔力が見えるのかが解っていませんし、これから先解るかも不明です。私的にも『転生者だから』と適当に思考を放棄しているので猶更ですね。

 そしてそれを伝えるのも、流石に色々な理由があり不可ですし・・・


 私は悩んだ末・・・


「シーラ・・・」


「・・・はい・・・」


 私はシーラの頬を片手で撫でながら出来る限りの笑顔を作りつつ目を見つめ、感情をこめて口から言葉を放ちます。


「私にはシーラが必要ですわ」


「・・・えっ」


 私はポカーンとするシーラの耳元に口を近づけ囁きます。


「実はね、魔法を使うのには・・・愛が必要ですの」


「・・・えっ!?えっ!?」


「私はシーラに愛を感じておりますわ。そしてシーラからも・・・だから魔法を使う事が出来ているんですのよ?」


「・・・えぇぇ!?」


 私が悩んだ末に出した答えは・・・はぐらかしと嘘でした。

 嘘と言っても100%の嘘ではなく、ステータスに好感度も出ていた事から関わりがある『かもしれない』ので、50%・・・いえ、シーラが可愛くでたいという気持ちは確かにあるので25%位の嘘という事にしておきましょう。


 という訳で、普通の人からされたらちょっとあれですが、今の超絶美少女(自画自賛)からならいいだろうと最後の締めに掛かります。


 私はシーラの耳元に近づけていた口をさらに近づけ、耳に軽くキスをして顔を離し、再び頬に手を当てて目を見つめながら言葉を放ちます。


「シーラに力になってほしいのが本当だってお分かりになって?」


「・・・は・・・はぃ・・・」


 こんな状況でこんな事を言われて情報が追いついていないのか、シーラの視線は忙しく動き焦点が定まっていませんでした。

 しかし顔を見るとネガティブそうな顔はしていなかったのでミッションコンプリートと言えるでしょう。


(ふぅ・・・取りあえずはこれでいいですわね・・・って・・・)


 ふぅ~と一仕事終えた感を出していると横から視線を感じたのでそちらを見ると、4つの目が此方を見ていることに気付きました。

 その目からは羨ましい(思い込み)と言うような感情が見て取れたので・・・


 マルシアとサマンサにも同じようにしてあげました。


 実際サマンサは凄く喜んでいたし、マルシアも最終的にはポワポワしていたので・・・問題はありませんわよね?



 ・

 ・

 ・



 少し時間が経った後、再び私達の元へレッドとイエローがやってきました。


「お嬢様方~元気してますか~?ご飯ですよ~?」


 どうやら食事を持ってきた様で、一応最低限の世話はしてくれるみたいです。


「じゃあご飯を食べる為に縄を解いてあげますけど・・・解ってますよねぇ?」


 私達がレッドの問いかけに体を震わせながら小さく頷くと、それに満足したのかレッドとイエロ―は私達の拘束を解きました。


 そして・・・


「はい、じゃーこれどうぞぉ~?」


「こっちは水だ」


 レッドは4つのパンを地面へ投げ、イエローは水が入っているであろう水袋を地面へと放り投げました。


「んじゃ~ごゆっくりぃ~?」


「因みにそれで1日分だ。また明日の夜同じだけ持ってきてやる」


 レッドとイエローはそう言うと、用が済んだとばかりに部屋を出ていこうとしましたが、私はその前に声を掛けます。


「あ・・・あの・・・」


「ん?何お嬢様?」


「お・・・お花を摘みたいんですの・・・」


「花?なんで・・・ってあぁ、トイレね。わっかりづらい言い方だなぁ~」


「はい・・・お願いいたしますわ・・・」


 私は立ち上がり、レッド達の居る部屋の扉へと歩いて行きますが・・・


「ちょっとまってなー」


 レッドは私に待っていろと言って部屋を出ていきました。

 イエローはそのまま残っている為、私は部屋の中途半端な位置で立ち止まらざるを得ません。

 居心地が悪い状態で待っていましたが、レッドは何かを持ちながらすぐに戻ってきました。


「はい、どうぞー?」


 レッドは私の前へ持ってきた何か・・・壺をどんと置きましたが・・・え?まさか・・・


「んじゃトイレも渡した事だし、じゃあねお嬢様方。ごゆっくりぃ?」



 レッドはトイレ代わりの壺を渡した後にニヤニヤと笑うと、イエローと共に部屋を出ていきました。



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 マシェリーより:お読みいただきありがとうございますわ。 

 「面白い」「続きが読みたい」「演技術?」等思ったら、☆で高評価や♡で応援してくだされば幸いですわ。

 ☆や♡がもらえると アナタも演技で欺いて差し上げますわ。


 マシェリーの一口メモ

 【『放電』も『着火』も『水生成』も魔法としては初歩の初歩で、所謂便利な生活魔法という扱いですわ。因みにですが、簡単な魔法はゲームと同じくキーワードのみで発動できますが、難しい魔法は詠唱がいるらしいですわ。】

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