第34話 状況を変える為に

 暗闇の中に鉄の様な香りが広がり、微かなうめき声が広がる部屋の中で私は・・・


 意外と余裕な状態で向こうの部屋の様子を伺っていました。


 普通だと私の後ろでガタガタ震えている3人の少女みたいになる所ですが、そこは流石私といった所で、転生前のヤンチャしていた時の名残なのか存外精神は安定を見せていました。


(現代日本人としての感覚も残ってはいるので、グロっ!とはなりますが余裕ですわね・・・。やっぱり転生前の私ってヤバくありません事?)


 転生前の暴虐モンスターっぷりに慄いてしまいますが、生まれ変わった今の私は天使の様な優しさを持った女神系令嬢、これからは優しみを振りまいていきますよ!・・・っと、精神が安定していると言いましたが、少しは揺れている様で、何時もなら考えないような事を考えてしまいました。


 気を取り直す事にして・・・私は手足の拘束と口の布を外し、アイテムボックスから明かりを取り出します。

 するとすぐ傍で震えていた少女たちの口から「っひゅ!」っと息をのむ声が聞こえました。


「大丈夫ですわ。隣の部屋からは出ていったみたいですので。っと、ちょっとごめんなさいね」


 未だ恐怖で体が固まっているのか、声すらも出せない様子の3人の頭を軽く撫でた後、私は明かりを持って離れた位置で倒れているだろう男性の元へと向かい様子を確認します。

 歩く途中で流れ出た血がピチャピチャと音を立てて少し不快ですが、我慢をして男性へと近づくと・・・そこには既に事切れていた男性の死体がありました。


「・・・これだけ血を流していればそうですわよね。失礼いたしますわねオジサマ」


 少々罰当たりでしょうが、今は少しでも役に立つものが必要な為、倒れている男性の体を確認して有用そうな物を探します。

 ですが予めレッド達に取られていたのでしょう、持ち物と呼べるようなものは持っていませんでした。


「まぁ私達もそうでしたし、当然ですわよね。となると、このアイテムボックスの魔道具が残っていたのは運が良かったですわね」


 レッド達は私達の荷物を自分たちが持っていたからか、私達に対してはそこまで厳しいチェックはしていなかったみたいでした。

 その小さなラッキーに感謝をしつつマルシア達の元へと戻るのですが、未だに彼女達は私が離れていった体勢のまま固まっていました。


(あら・・・ってそうですわよね。元の悪辣な私の様な人間ならともかく、彼女達は普通の令嬢ですものね。目の前であんなことがあったら恐怖して当然ですわね)


 ですので私は少しでも気持ちが落ち着く様に1人ずつ頭を抱え、優しく撫でながら口元の布だけ取っていきます。


 ・

 ・

 ・


 30分程経ったでしょうか、私がずっと宥めていた為3人はなんとか会話が出来るくらいには落ち着きを取り戻してくれましたが、彼女達の心には怯えが染み込んでいました。


「お姉様・・・私達どうなってしまうんでしょうか・・・」


「死にたく・・・ないです・・・」


「マシェリー様・・・大人しくしていれば殺されないでしょうから大人しくしていましょう・・・。その内に父がお金を払ってくれますから・・・」


 この様に『抵抗すればあの男性と同じ様な目に合う』と意識付けさせられ、3人はこのまま身代金と引き換えに自由になる事をただ待つ様になっていました。

 しかしこのままそれを待っていると、どうにも嫌な事になる気がしてならないのですが・・・


「うーん・・・このままだと私達、隣国にでも売られるかも知れませんわね・・・」


「「「え・・・?」」」


 ついついストレートに言ってしまいましたが、もう少し言い方を考えた方が良かったかもしれません。

 しかし言ってしまったモノは仕方がありません。私はそのまま話を続けることにします。


「こういう場合ってすんなりと帰してもらえる確率は低いと思うんですの。だって返した所で私達の家から追手が掛かるでしょうから。それなら隣国にでも逃げてそこで私達を売った方が賊的には美味そうですわ」


 まぁそうすると引き渡し方法とかが面倒になるかも知れませんが・・・って、そういえば目を覚ました直ぐくらいに引き渡し方法がどうたらって言ってましたね。


「それに先程男性の方が殺される前、イニエラが『買い手がつかない』ともいってましたわ。つまりそれは・・・って・・・」


 そこまで言った時私は言葉を止め、「あー・・・えー・・・」と言葉を詰まらせた後謝罪の言葉を述べました。

 どうやら推察した私達の行く末は少女達の心を折るには十分だったらしく、先程以上に沈み込んでしまったのです。


 しかしこのままでいるとそれが現実になってしまうので、何とか彼女達を奮い立たせるため秘密を1つ話し、パフォーマンスを行う事にします。


「大丈夫!貴女達は必ず私が守って見せますわ!そう、私の魔法でっ!」


「「「え・・・?」」」


 3人が俯けていた顔を上げたので『今ですわっ!』とこっそりと魔法の本を読み知った魔法を使おうと思いましたが・・・ピタリと動きを止めます。


(待って下さいまし・・・どうせなら・・・)


 ここで私は1つ考えました。


(どうせなら、彼女達の属性を使った魔法を使ってみるのもいいかもしれませんわね。その方が自分も力になれると感じて奮起してくれる可能性が高いですわ)


 彼女達に触った時にもノワールと同様、魔力が見えると言う現象が起こりました。

 つまりノワールの黒の魔力を扱ったのと同じく、彼女達の赤・黄・青の魔力も使える可能性はあるのです。

 ノワールがしてくれた補助はないのでもしかしたら失敗するかもしれませんが、その時は闇魔法を使い『魔法は使える』事をアピールすればいい、私はそう考えて火・雷・水の魔法を使う事にしました。


「そう、実は私は魔法が使えるんですわ。ですがそれは他の方の力を借りなければいけませんの。ほら、サマンサに妙な事を頼んだことがあったでしょう?あれはその為の特訓だったのですわ」


「お泊りした時の・・・ですか?」


「そうですわっ!」


 先ずは一番話が通りやすそうなサマンサに狙いを定め、サマンサに内緒で行っていた検証の事を話して気を引きます。

 その間に自然に間を詰めてサマンサへと密着し、魔力が見える状態へと移行します。


(よし、ちゃんと見えますわね。後は喋りながらちょっと時間を稼いで・・・)


 引き続きサマンサやマルシア、シーラに向かい話し続けて時間を稼ぎ、その間に黄の魔力が扱えるかを確かめていきます。


(・・・黒の魔力よりかは扱いにくいですがなんとか行けそうですわね。これが補助の有無のってことなんですの?いえ、もしかしたら魔法が使えるか使えないかかもしれませんわね)


 運用効率的には黒の半分くらいですがいける事を確認し、『さぁいよいよ本番ですわ』と気合を入れると話の方向をそちらへシフトさせます。


「・・・・・・と、いう訳で私は魔法を使えるのですわ。見ていてくださいまし?」


 話を其処で一旦止めると、私は意識を集中させて魔力を動かしていきます。

 実際に魔法を使うのはこれが初めてですので緊張はしますが、何とかこれで発動をさせないと脱出も難しくなるので成功させなければなりません。



 ・・・どうか発動してくださいまし!



 私はあのパーティーの時と同じように願います。



「いきますわよっ!雷魔法・・・『放電』っ!」



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 マシェリーより:お読みいただきありがとうございますわ。 

 「面白い」「続きが読みたい」「盗賊団より悪してるぅ」等思ったら、☆で高評価や♡で応援してくだされば幸いですわ。

 ☆や♡がもらえると 私が女神系令嬢だという事を教えて差し上げますわ!


 マシェリーの一口メモ

 【実は転生前の私は一部の使用人に『小さき悪徳の魔女』と言われていたそうですわ。】

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