第28話 魔力を扱うための特訓2と友人達

 自分の呼吸音さえ聞こえない無音と、物体の微かな輪郭さえ見えない暗闇。


 今の私がいる空間はそんなところでした。


【な・・・なにが起きましたの!?ノワール!ノワーーール!!】


 私は直前まで一緒にいた人物の名を必死で呼びましたが、その声も周りの黒に吸い込まれたかの様に聞こえませんでした。


【ええっと・・・確か私は魔力を操って・・・それで・・・】


 直前までの記憶を思い返すと、ノワールに何か言われていた気がしました。・・・確か静止と・・・このままでは何かが?


【あぁ・・・今思い出すと私、ハイテンションになりすぎて思考がおかしくなっていましたわね・・・。失敗ですわ・・・】


 この様な状況になって漸く冷静に慣れたのか、先程までの自分を思い出して恥ずかしくなってしまい、思わず両手を顔にやろうと思ったのですが・・・何かが手に当たりました。


【あら・・・?これは・・・テーブルですの?】


 何かと思い触っていると、どうやら何時もお茶を飲んでいるテーブルだという事に気付きました。


【どういう事かしら・・・?あ・・・もしかして・・・】


 テーブルの天板を手で撫でていると私の中に1つの考えが浮かび、それを口にしようとしたその時です。


 周りの暗闇がドンドン薄くなり、やがて何時もの部屋が姿を現しました。


「あら・・・?」


「ふぅ・・・漸く散らせました・・・。お嬢様、大丈夫でございますか?」



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「つまり、魔力の扱いを間違えるとああいう事にもなり得ると・・・そういう訳ですの?」


「はいお嬢様。申し訳ありませんでした、事前にお伝えしておけばよろしかったですね・・・」


「いいえノワール。いきなり始めた私も悪かったのですわ」


 私達は一旦特訓を中止し、先程起きた事の説明をノワールから聞いていました。

 如何もそれによると、魔法を使う際もそうみたいですが魔力の扱いを失敗すると暴走現象を引き起こすことがあるみたいなのです。

 その暴走現象時に起こりうる事柄は様々みたいですが、先程は魔力の性質に近しい現象が引き起こされた様でした。


「しかし黒の魔力は凄いですわね・・・まさに『闇』でしたわ。あれを夜闇に紛れて使えばだれにも見つからないでしょうし、確かにノワールが諜報寄りの魔法といったのが解りますわね」


 私は先程の体験からノワールが言った意味が理解できてしまいました。確かにあれならば、諜報に使用すれば鬼に金棒と言った感じで活躍できそうです。


「解っていただけて何よりでございます。しかし流石はお嬢様でございましたね」


「何がですの?」


「いきなり魔力を操って見せた事もそうですが、あの暴走現象の規模でございます。普通でございますと、魔法を使い立ての者や魔力が少ない者、これらの者達が魔力暴走を引き起こしたとしてもあそこまでの規模になりません」


「へぇ・・・そうですのね・・・。因みに普通だとどれくらいの規模になるのかしら?」


「そうですね・・・精々両手を広げた2倍位・・・でございますね」


「成程・・・」


 ノワールが言った規模を、自分で腕を広げながら確かめてみますが・・・流石はスペックチートの悪役令嬢といったところでしょうか、その役割に恥じぬ凄さです。


(まぁでも、これで天狗になっていたら本来の悪役令嬢と同じですわね)


 私は決して天狗になって慢心しない、そう心の中で自分を戒めた後、ノワールへ次はどんな特訓をするのかと尋ねてみます。


「それでノワール、魔力も扱えたことだし次は実際に魔法を使うのかしら?」


「・・・」


 ノワールは直ぐに答えずに少し考え込んだ様子を見せました。もしかして私がここまで早く魔力を扱えるとは考えておらず、次の事はまだ考えていなかったのでしょうか?

 1分程ノワールは黙っていたのですが、それで考えがまとまったのでしょう、ノワールは考える為に俯けていた顔を上げました。


「実はここまで早いとは思っていませんでしたので、少しだけ考えさせてもらったのですが・・・取りあえずは魔法を使うより魔力操作に慣れた方が良いと思われます」


「そうですの?」


 魔力暴走を引き起こしたからでしょうか、ノワールは引き続き魔力操作の特訓を提案してきました。

 意外と魔力暴走は起こる頻度が高かったりするのでしょうか?


「はい。お嬢様なら猶更、魔法を使うよりも先に魔力の操作を習うべきだと思います」


「それはまた魔力暴走が起きるからですの?」


「いえ、魔力暴走が起きるというより、魔力暴走が起こった時の為にでございます」


 ノワールの言った事の意味を考えてみますが、私には解りませんでした。


「よく解りませんわね・・・」


「はい、ご説明いたします。先程も言った様に、普通の者ならば魔力暴走が起こったところで規模は小さいものです。しかしです、お嬢様が先程引き起こした魔力暴走は規模が違いましたよね?」


「ノワールに聞く限りそうでしたわね?」


「はい、私が知るかぎりではあれほどの魔力暴走は聞いたことがありません。つまりですお嬢様、凄まじい潜在能力を持つお嬢様が再び魔力暴走を引き起こすと、それは凄まじい暴走現象を引き起こす可能性が高いのです。先程は黒の魔力が部屋に満ちたくらいで済みましたが、下手をすると・・・命に係わるかもしれません」


「な・・・成程ですわ・・・!」


 ノワールが圧を感じるほどに真剣に言うので、私は思わず気おされてしまいました。しかしそれでノワールの言いたいことが十二分に解った気がします。


「よく解りましたわノワール。それではノワールが大丈夫と思うようになるまでは、魔力を操作する特訓だけにいたしますわ」


「はい、私の意見を聞き入れてくださりありがとうございます。しかしです、お嬢様ならば直ぐにでも私レベルを追い抜くほどになると思われますので、そうですね・・・1週間もあれば魔法を使えるステップに上がれると思われます」


 ノワールからの信頼が凄いのですが、それに応えられるでしょうか?

 私は不安風に吹かれそうになりましたが、自分の目標を思い出し・・・心に喝を入れます。


「ええ、そうですわね。私に掛かればちょちょいのちょいですわ!そうですとも!」


 私はわざと大きなことを言って自分を奮い立たせました。

 するとなんだか段々と出来るような気がしてきて、テンションが上がってきました。


「やってやりますわ!オーッホッホッホ!」


 その内なんだかノリに乗ってきたので高笑いまで決めてしまいますが、私はそのまま行動を開始する事にしました。


「それじゃあ早速始めますわよノワール!私の凄さを見せて差し上げますわ!オーッホッホッホッホ!」


「畏まりましたお嬢様」



 その日、私の部屋から時々聞こえる高笑いに、『マシェリーお嬢様が以前の調子を取り戻した!』と使用人達の間で噂が立った様でした。




 ・

 ・

 ・




「それでマシェリー様、何で今日はテンションが低いんですか?」


「うふふ・・・珍しいです・・・」


「大丈夫なのですかお姉様?」


 魔力暴走を引き起こしてから2日後、開催された何時ものお茶会で私は3人から心配をされていました。


「いえ・・・何でもないですわ・・・えぇ・・・」


「そうですか・・・?」


 マルシアはそう言いますが、本当に体調はどうともないのです。ただ・・・精神的なモノなのです。


(流石に今思うとテンションがやばかったですわ。・・・魔力暴走のせいかしら?)


 私のテンションが低い原因は、2日前のテンションブチ上がり事件のせいでした。

『早速始めますわよノワール!』と言った後、テンションが上がり過ぎていた私は再び魔力暴走を起こしたり、悪役令嬢時代の様になったりと、今考えると少し恥ずかしくなるほどの暴走っぷりを見せていたのです。

 そしてその反動か、若しくは思い出して恥ずかしくなったのか、テンションが低くなっている訳です。


「ええ、本当に何でもないのですわ・・・。暫く貴女達と過ごしていればよくなりますわよ・・・ええ・・・」


 私はマルシアにそう言ってお茶を一口飲みます。恐らくですが、本当にお喋りでもしていたら平時のテンションに戻ると思っていたからです。

 しかしマルシアはそうは思わなかったのか、私を元気づける為なのかこんな事を言ってきました。


「は・・・はい・・・。あ、そうだマシェリー様、よろしければ次のお茶会は家の街へ遊びに行く事に変更しませんか?」


「街へ遊びに・・・ですの?」


「はい、先日のパーティーでの事を父に話した所、いつもお世話になっているのだから偶にはもてなしなさいと言われたのです。私としてもマシェリー様にお礼がしたいと思っていたので丁度いいかと思って・・・」


 どうやら転生してから順調に好感度を稼いで来たからか、遊びにおいでと誘ってくれたみたいでした。

 ずっとお茶会と言うのも悪くはないのですが、偶には気分を変えて街へ繰り出すのも悪くないかもしれません。


「そうね、いいかもしれませんわね」


「あ!お姉様!それなら私の所にも来てください!家の街は商売が盛んなのでショッピングとかすると楽しいですよ!」


「うふふ・・・私の所は綺麗な景色の場所がいっぱいあります・・・。だから私の所にもぜひ・・・」


 私がマルシアの話に喰いついたからか、サマンサとシーラも自分の領地へ来てくださいと誘ってくれます。


「そうですわね、今度からお茶会だけでなくそういうお出かけもいたしましょうか。まずはそうですわね、マルシアの所へ遊びに行きましょうか」


「「「はい!」」」


 私のローテンションから思わぬ事態になりましたが、これもいい流れだと私は思います。

 私が転生して変わったからか、この子達も変化を見せてきていました。ここで更にその流れを加速させれば・・・


(少なくともロマンスの様なバッドエンドにはなりませんわ)


 将来また私の取り巻きになるにしろ、私から離れて生きるにしろ、どっちになっても今の性格ならば悪い事にはならない筈です。


(情が沸いたこの子達の未来が酷い事になるのは避けたいですものね)


 私が物思いにふけっていると、3人はいつの間にか笑いながら楽しそうにお喋りをしていました。


「そう言えば知っていますか?実はあの王都に出している店の・・・」


「あ、私もそれ聞いたことがあります。たしか・・・」


「うふふ・・・それって実は・・・」


 それを見て私は嬉しくなってしまいます。

 この3人、ついこの間までならマウント合戦を繰り広げていたのに、今は普通に仲がいい友達みたいに喋っているのです。


(願わくばこのまま何事もなく、仲のいい友人関係のまま時を過ごしたいですわね・・・)



 私は何にという訳ではないのですが祈りを捧げ、その後3人の会話へと混ざり楽しい時を過ごしました。



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 マシェリーより:お読みいただきありがとうございますわ。 

 「面白い」「続きが読みたい」「高笑いはお嬢様の嗜み」等思ったら、☆で高評価や♡で応援してくだされば幸いですわ。

 ☆や♡がもらえると もっと高笑いを決めますわ!オーッホッホッホッホッホ!


 マシェリーの一口メモ

 【今回の魔力暴走はああいう結果でしたが、一番ヤバイ結果となると・・・ブラックホール発生で大参事ですわ。】

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