第21話 暗殺者

「ご無事ですか!」


 エルズバーグの雇った警備員が護衛対象であるエルズバーグの元に駆け付ける。

襲撃して来た連中は俺が遠隔で倒しているので、そんなに慌てて来る必要も無い。

むしろ、不特定多数の知らない奴が寄って来ると、敵味方を判別し辛いので迷惑だった。

広域探知マルチサーチ】を使えば良いって?

そんな魔力が残っているなら苦労はない。


「あいつらを下がらせてください。

護りにくい」


「なんだと、俺たちはこの屋敷の警備員だぞ!」

「そうだ、貴様こそ下がれ!」


 いや、その警備員が役立たずだったから、俺が敵をほぼ全員倒したんだが?

そして、俺は警備員の顔を知らない。

そんな状況を利用しようとするやつが……。


カキン!


「ほらね」


 警備の連中の中から飛び出したやつがエルズバーグに斬りかかって来た。

俺はそれを予測して身構えていた。

侯爵家の暗部がやりそうな手口だ。


「なんだおまえは!」


 味方だと思っていた男が主人を襲う様に、動揺する威勢の良かった警備員。

この期に及んで、剣を抜く素振りも無い。


「お前らが、わざわざ暗殺者を連れて来たんだよ!」


 俺の指摘に顔を青ざめる警備員。

何処から雇ったか知らんが、こんな役に立たない奴ら、考え直した方が良いぞエルズバーグ。


 その間にも暗殺者は俺を突破してエルズバーグを討とうとする。

そのナイフから紫の液体が滴り落ちる。


「あー、このナイフ、猛毒付きか」


 少しでも傷付ければ終わりってやつだ。


「魔導士の出る幕じゃない!

俺に任せろ!」


 俺が暗殺者のナイフを慎重に捌いているのを見て、理由もしらずに焦れた警備員がしゃしゃり出る。


「あ、こら!」


 警備員の剣が暗殺者を捉えると同時に、暗殺者のナイフが警備員に触れ、そのまま警備員の身体を俺の方に押し付けて来た。

警備員の身体によって、俺の行動範囲が狭まる。


「ぐっ!」


 一瞬で顔色が悪くなる警備員。

毒を受けてしまったようだ。


「余計なことを!」


 暗殺者は捨て身で警備員の剣を受け、警備員の身体を利用して俺の行動を制限した。

エルズバーグの元に向かうにも警備員が邪魔だ。

暗殺者はここで自分が死んでも、ターゲットを殺められれば任務成功だ。

暗殺者の口元がかすかにニヤけた。


「【召喚サモン、魔盾亀】


ガキン


 俺の召喚で魔盾亀がエルズバーグと暗殺者の間に顕現する。

そして、魔盾亀は甲羅を暗殺者に向けて魔法防壁を展開した。

そこに暗殺者のナイフが突き立てられ、弾かれた。

突然のことに驚いた暗殺者に追いついた俺は、隙の出来た暗殺者を斬り伏せた。

危なかった。ギリギリのところだった。


「これ以上部屋に人を入れるな!

隣の奴は知り合いか?

知らない奴は身元が判明するまで部屋から追い出せ!

従わない奴は暗殺者だ、斬れ!」


 俺はエルズバーグを危険に晒した警備の連中に怒鳴りつけた。

味方が無能だと迷惑すぎる。


「ケイン様の命令に従いなさい!」


「「「はっ!」」」


 エルズバーグが命じて、ようやく警備の連中が従った。


「危なかったな」


「ケイン様のおかげです。

助かりました。

あれは……」


 エルズバーグが邪魔をした警備員をチラ見する。

警備員は毒が周って床に倒れていた。


「即効性の致死毒だ。

どうせ間に合わなかったさ」


 警備員が刺された時にでも解毒薬を使えば助かったかもしれない。

しかし、その毒の種類も知らないし、解毒薬は持ち合わせていない。

警備員を助ける時間でエルズバーグが殺られていた。

見捨てるしかなかったのだ。


「だいたい、勝手に助太刀しようとしなかったらまだ生きてる」


 それは警備員自身が選んだ未来だった。


 ◇


 しばらく様子を見たが、奥の手も暗殺者1人で終わりだった。


 俺は風呂から上がったクレアから魔力を吸って【広域探知マルチサーチ】を使った。

今度はエルズバーグの使用人も厳しくチェックした。

そのおかげで警備の者の素性も確認され、これで襲撃は終わりと判断された。


「まさか、100人もの軍勢で他貴族領に攻め入るなんて……」


「理由なんていくらでも作れるのが大貴族なんだよ。

不敬者のエルズバーグを誅したとかね。

その理由は殺してからみつければ良いんだよ」


「恐ろしい話ですな」


「だが、全滅させられたとなると話は別だ。

王都に訴え出れば、アレスティン侯爵家も恥をかくことになる」


「お取り潰しになるのでは?」


「それが難しいのが大貴族なんだよ。

派閥の連中が擁護して、黒でも白にしてしまうのさ」


「『不幸な行き違いだった、許せ』という言葉と幾何かの賠償金で終わるだろう。

まあ、それ自体が大恥なんだがな」


 そうなると、クレアの実家は後ろ盾として最適だな。

俺も巻き込まれたことで『アレスティン侯爵には手を出させない』という言質が効力を発揮しそうだ。

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