第16話 都市のお仕事(3)

魔法の話をしていたらいつのまにか都市市場の出口を知らない間に通り過ぎていた。

市場は大通りを中心に一本道の直線で行っているので帰る時も同じ道を通れば戻れるはずなのだが、ギンは何故か都市市場から外れて路地の方へと歩いていく。



「な、なんですかここ…」


見たことのない場所…

さっきまでいた市場のような華やかで賑やかな場所とは打って変わってここは閑散とした静かな一本道になっている。


日の光も入りにくく、真っ暗な一本道なのに明かりが全く見当たらない。


「面白いだろう。ここは主に夜行性の種が多く住む場所なんだ。だから昼間はここら辺がしんと静まりかえっているのが当たり前なんだ。」


そう言ってある家にかかっている看板を指さす。


「ここは店なんだが、見ての通り夜十二時からの開店だ。」


「本当ですね。」



ふとあたり一面を見渡してみる。

まだ灯る気配のない街頭がズラっと並び、道を大きな軸として線対称になるように左右似たような建築物がそびえ立つ。

パッと目を閉じて夜の世界を思い浮かべ、目を開くだけでそこには黄色やオレンジなどの暖かい色でこの区域を照らし、夜に活動するバットマンやナイトゴーンなどの種族が仲良くはしご酒をする様子が鮮明に思い浮かぶ。


「本当は夜に来るべきなんだが、まぁここを夜に来ても居酒屋ばかりでエレシアが楽しめるものは少ないと思うけどな。」


ギンは淡々と喋りながらこの細い道を後にした。









随分と歩いただろうか…あたりは一気に視界が開けて見通しが良くなり、都市市場のような活気のある場所ではないところまでやってきた。


「…ここは?」


夜の居酒屋が立ち並ぶ細い道を抜けて団地を抜け、どんどん直線を進んでいくと家より草木が目立つようになってきた。


気がつけば周りに家はなく、目の前に見えるのは大自然と言えるであろう森林だった。


「ここから先は…そうだ。森林ゾーン。この都市の右上に位置する森林の区域だ。」



そう言ってギンはリュックの右ポケットに丸めて筒状になっている古い紙を取り出し、ゆっくりと広げながらエレシアに見せる。



「ここが俺の家だとしよう。そうすると…今は右にまっすぐ進んで上の方に歩いたところだな。」


わかりやすいように歩いたであろう場所を指でなぞりながら目的地を示す。


ギンの家がほぼ都市の中心だとしたら、ここに来るまでに相当な距離を移動したのが目に見えてわかる。



「んー、どうしようか…」


森林ゾーンの手前にて、地図を広げたまま硬直したギンが理由を聞いて欲しそうに唸る。


「…どうしたんですか?」


「いや、家に帰る時間を遅くする代わりに森林ゾーンの内部まで入って様子見するか、早いうちに帰るかどうか…」


「入ってみたいです!!」



エレシアは考える間も無くすぐさま答えた。

そのスピードにギンはギョッと驚き、「お前決断力早いな…」と少し引きながら呟く。



「まぁ最近仕事もできてなかったし、他のメンバーに迷惑かけることもしたくねぇから今日は様子見に顔出しに行くか!」

広げた地図を手際よく丸めて元あったリュックの右ポケットに突っ込みながら、ギンは気合の入った声をあげる。


その決定事項にエレシアも小さくガッツポーズをした。


しかし、喜んでいるエレシアにグッと近づいてギンが念押しをする。

「連れてってもいいが、森林ゾーンにいる種族は何かと厄介でね…下手したら話の内容にも気に触ることを言われるかもしれん。俺も助けれるかどうかわからないが、それでもいいか?」


エレシアは首を大きく縦にブンブン振って同意のアピールを送る。


ギンは正直エレシアを森林ゾーンに連れてくのに気持ちが乗らなかったが、ギンはグーっと背を伸ばして一息ついてから「…行くか。」と気持ちを切り替えて森林ゾーンへと向かった。


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