第5話 猫
「猫だ!」
触りたくてよしよしと近寄っていく。人に慣れているのかな、その斑模様の猫は素直ににゃぁーと声を上げてわたしの脚に擦り寄ってきた。
「か、かわぁいい!!」
眼を細めて嬉しそうに頬を擦り付ける猫。しゃがんで猫の喉や頭を撫でる。すると喉鳴らすのだ。もうその仕草だけで可愛すぎる!
「よしよし、ここ?ここがいいの?うふふ、かわぁいい……!」
「ほんとだね」
膝を曲げてわたしの隣で猫とわたしを見る唯月。彼が素直に表現することは少なく、いつの不愛想が柔らかい。これも猫エネルギーの力なのかな?
「ねー!猫ってかわいいよね!」
お互いに好きな生き物が猫だなんて素敵。そんなことを思っていると唯月はこう言った。
「猫とじゃれてる
「…………ひぇっ⁉」
思わず変な声が出てしまい、猫を撫でていた手を止めてしまった。すると、その猫は唯月に擦り寄り、「よしよし」と撫で始める。
その光景を見ながら、心臓はバクバクとうるさい。
今のって……え?そのえっと、わ、わたしが……か、かかわいい…………ってことだよね。
唯月はわたしのことを可愛いと思ってくれていることに、もう堪らなく幸せだ。好きな人からかわいいと言われた事実に有頂天に昇ってしまいそう。
顔も熱いし、心臓も鳴りやまない。耳まで熱い……。
両手で頬を覆うわたしを見た唯月は、少しだけ恥ずかしそうに「かわいい」と呟いた。
その一言にまたわたしの心臓は暴れる。
もうどうにかなってしまいそうなど嬉しくてドキドキで心臓が破裂してしまいそう。顔もきっと真っ赤なんだろう。うぅ~~恥ずかしい。
彼の顔をよく見れないまま、熱が引くのを待っていると彼は笑うのだ。
「猫……かわいいな」
……
「え……?」
「うん?なんだと思った?」
にやつく唯月。わたしは羞恥で真っ赤になった。
「もー!いじわるぅ!」
「ごめんごめん。今日は猫の日だからね」
「……むっ意味わかんない」
嬉しかったのに……。
拗ねるわたしに、首に手をまわした唯月はぼそっと零した。
「——全部、本音」
ぱっと振り向けば唯月の頬はほんのり赤く、居心地が悪そうに気恥ずかしそうに視線を彷徨わせ、ぽかんとしているわたしを見て立ち上がる。
「ほら、帰ろ」
さっさと歩きだす唯月にわたしは走って追いかけた。
え?さっきのって……いいのかな?勘違いじゃないのかな?……唯月はわたしをかわいいって思ってくれてるのかな?
その答えは耳まで赤くした彼が答えだった。その姿が微笑ましくて愛おしくて嬉しくて、だからほんの少しいじわるをする。
「なんて言ったの?聞こえなかったよ」
「べ、別に。なんでもない」
「えーなに?恥ずかしいこと?」
「う、うるさい!」
「あはははは!」
それからは他愛もない幸せな帰り道を隣に並んで歩き、「また明日」と、手を振って別れた。
いつか、直接言ってくれる日がくるかな。少しだけ期待しておこ。
わたしの気分は最高潮だ。
そんな二人の青春を、斑の猫だけが見送った。
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