第2話 家出する
――愛しのメアリーへ。
この手紙を開けたと言う事は家を出ることを決めたのですね。
常々、貴女は生きづらい家よりも外に出て自由を謳歌する方が幸せだと思っていたの、本当は病気になる前に言うべきだったのだけど、あの人達が何をしてくるか解らないから手紙で伝える事にしたわ。
家を出るとなると貴族社会で生きてきた貴女にはキツいものになるでしょう、だから、せめて、貴女が住まう場所だけでもと考え、私が幼き頃、継母と上手くいかず嫌がらせを受ける日々に疲れ果て身も心も病んでしまった私を憂いだ父が連れて行ってくれた療養地の家を貴女のために買い取ったの。
家は療養地で仲良くなった友達の娘夫婦が管理しているから安心して。
場所はローラタウン、庭師のトムに聞けば案内してくれるわ。
そうそう、手紙と同時に渡したブローチも忘れずに持って行って、それが私の孫だという証明になるから。
どうか元気に幸せな一生を。
――マイラ・ローリエより、愛を込めて。
「・・・・・・お祖母様」
お祖母様からの手紙を読み、目頭が熱くなる。亡くなる直前まで私を思っていた事に。
そして、手紙と共に隠していたブローチを触る。
亡くなる前にお祖母様が私に渡したブローチはお祖母様の時代に流行ったデザインのものでアンティークと呼ばれる代物。
実母の趣味に合わないものであるが私への贈り物は全てメロディーのものという考えを持っている実母から私宛の贈り物は全て奪われたから隠していた。
ブローチと手紙を机に置き、スーハーと息を吸い込むと腰まで伸びていた髪を肩までぐらいに切り、重いドレスを脱ぎ捨て軽装に着替える。
ドレスはどうせ実母が気に入ったものは持って行くと思うから全て置いておく、持って行くのは気に入ってる普段着と下着とお金になりそうな物、あと手紙とブローチ。
小さな旅行鞄に全て詰め込むとこっそりと部屋を抜け、庭師のトム爺さんの部屋へ向かった。
「おや、メアリーお嬢様。その髪はどうされましたか!? いやそれ以前に爺とはいえ夜更けに男性の部屋に来るのはダメですよ」
「ねえ、トム爺さん。ローラタウンの行き方を教えて欲しいの」
トム爺さんの部屋に着くとトム爺さんの小言を無視し、お祖母様の手紙を見せるとトム爺さんは細い目をこれでもかと開き、ホッとしたような表情をした。
「・・・・・・そうですか。この屋敷を出ることにしたのですね。ローラタウンは儂の信頼する者にご案内します。連絡するので暫くお待ち下さい」
そう言うと机の中から手紙を2通、取り出しフウ~と息を吹くと手紙は消えてしまった。
今のは魔法?
「トム爺さん、今のは・・・・・・?」
「驚きましたかな? 少々魔法が使えるのですよ。まあ、使えるのは生活魔法のごく一部ですが。
さて、来るまで時間はかかります。温まるハーブティーでもお出ししましょう、少しお待ち下さい」
こうして、迎えが来るまでトム爺さんが淹れてくれたハーブティーを飲み、私は家を出た。
「嬢ちゃん、そろそろ見えてきたぞ!!」
トム爺さんの知り合い、私をローラタウンまで連れて行ってくれた人、おじさんが声をかける。
私は荷車から落ちないように立ち、ローラタウンと思わしき町を見る。
あの町が今日から私が住む町。
トム爺さんが言うにはお祖母様が手紙に書いていた友人の娘夫婦の旦那さんがこの町の町長らしいから何とかなるのかな?
不安を抱えながらおじさんに危ないよと注意されるまでローラタウンを見ていた。
――メアリーが家出した後に遡る。
メイドのイザベラの朝は早い。
起きたら顔を洗い歯を磨き、仕事着に着替える。
「よし! 今日もバッチリ!」
鑑の前で身嗜みを確認して部屋を出る。
目指すはイザベラが仕えるメアリーの部屋。
今日はお昼頃にステファニーの婿養子として婚約した第三王子がやってくる、家族紹介も兼ねたお茶会が開かれる予定だ。
だから気合いを入れてメアリーを着飾らないと! といつも以上に元気よく。
「メアリーお嬢様!! おはようございます!!」
勢いよくノックしてドアを開けた。
「あら?」
いつもならベッドの中でイザベラが来るまで本を読んでいるメアリーからおはようと返事が来るのに、今日はない。
異変を感じ取ったイザベラはベッドを見る。
其処にはメアリーの姿はなかった。
「え? え? メアリーお嬢様・・・・・・?」
辺りを見渡してもメアリーの姿はない。
その事実に気付いたイザベラは顔を青ざめ。
「い、ない。誰か! 誰か~!! お嬢様!! メアリーお嬢様が!!」
大声で半狂乱になりながら執事長の元へと走った。
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