第343話 狂気王
息を荒げたクリッソンは、その腕で禿頭を伝う汗を拭った。
「お前がこんな所に立て籠もるからであるぞシャルル! 岩山をくり抜いたこの教会には退路も無い! 更には場所も狭くてろくな陣も組めず、ただでさえ数で劣っているというのに――ホレ見ろ!
「なんてヒドイのだ、人がこんな簡単に殺されている〜おそろしい事だ〜」
何処か他人事の様に語る彼等は、慌てているのかそうでも無いのか判然としない。
するとそこに、猛るクレイスの声が差し込んできた。
「とっとと頭をもぎ取ってしまうカァ!!」
「はい〜〜?」
「お前の事だぞシャルル、家畜に舐められる大王など他におるものか」
積み上げた騎士の死骸を足蹴にし、そのグラディウスをシャルルへと向けるクレイス。彼は破顔したまま、再びその剣に槍を纏わせる。
「
クレイスの纏わせた『反骨の槍』が、足下の血を吸い上げて
「な、なんだ〜トンデモなく恐ろしいエネルギーを感じる……やめろ〜」
「落ち着けシャルル! ……しかし、この肉壁を前に何をするつもりだ?」
クリッソンが眼鏡を光らせると、クレイスはその赤き槍を超大にして空へ飛び上がった――
「『反骨の槍』――『
「な、なんと――っ!?」
その槍を地へと深々と刺し混んだクレイス。
すると凄まじく大地が揺れ動き、教会のステンドグラスを全て割りながら、地に深い亀裂を刻み込んだ――
「あぁあ〜! やめろ揺らすな〜私の体が……体が割れてしまう!!」
シャルルの前にひしめいた騎士の群れがボロボロと狭間へ落ちて消えていく。その大地さえをも味方に付けたかの如く自在に操ったクレイスは、立っている事さえも困難な程に激しい地震で騎士達を
「フワァぁああ〜〜ッッ!! 割れるっワレル!!」
「お、落ち着けシャルル!!」
その地震に一番激しく動揺を示していたのは、彼等の長であるシャルル6世であった。
「ヒョおあああああ――!!!」
「黙れシャルル!! 割れる訳無かろうが!!」
最早パニックになっているかの様にガタガタと震え始めた大王は、何かこぼれ落ちない様にでもしているつもりなのか、腕で体をしっかりと抱え込みながら大粒の涙を流していた。
「ワーッハッハッハ!! 愉快だ、恐れ
――直に地震が収まっていくと、手に持った杖に身を預けながら心臓に手をやったシャルル。ボタボタと滝の様な汗を垂れ流し、九死に一生を得たかの様な面持ちで深い息を吐いた。
「なんでこんな事に……なんで、ナンデなのだ〜!」
長く巻いた毛をブンブンと振り乱し始めたシャルルが、目を剥いて死に絶えた騎士達の山を見渡していった。
「フワッぁあああ〜……ひ、ひどい、なんてヒドイ〜……どういう事だ、退路も無いではないか。なんでこんな状況に……ど、どうして私がこんなにも
滅裂な言動と共に、ほとんど乱心した様相のシャルル。すると彼はわなわなと震えた口元を開き、震えた指先を騎士達へと示してこう喚き始めたのである――
「裏切り者がいる!! わ、私をこんな窮地へと陥れた裏切り者がいるに違いないぞクリッソン〜!!」
「な、なぁ――!?」
驚いたクリッソンは、冗談を言っている様子でも無いシャルルの相貌を二度見していた。
そしてこう叫び出しそうになる――
――何を言っている。全部お前の引き起こした事だ、いよいよ乱心したかこの狂気王め。
だが――
「こんなに恐ろしい事になるなど有り得ん〜、裏切り者が……家畜共と結託した下郎が私をハメたのだ、そうに違いない〜!!」
「……」
クリッソンは彼の妄言を訂正するのを辞めた。何故ならばその方が、彼にとって都合が良い事になるからである。
「グフフ……」
そんなシャルルに共感を示すかの様に、同情する様な素振りを見せ始めたクリッソン。
彼は自らの為に命を賭していた騎士達に向けて、苛烈に非難する口調を見せ始めた。
「そうだシャルルよ! なんて可愛そうな大王なのだ!!」
ゴクリとツバを飲んだ騎士達は、面頬を上げながらそんなクリッソンを愕然と見上げていった。
「ひどい、なんて
「ぉぉお、分かってくれるかクリッソン〜そうである、私を陥れた罪人がこの場におるのだ〜」
「こうなってはシャルル……最早敵も何も無い……お前の御技でこの場に居る者を全て殺し尽くすのだ、もう手加減する必要も無い、悲しいがお前が生き残る為にはそれしか無いのだ! ……ぁ、ただし私は例外であるぞ?」
「あ〜そうか……そうであるなぁクリッソン……あ〜、本当に、お前が友で良かった〜」
「グッヒヒ」
信じて付き従って来た将に清々しい程に裏切られた騎士達は、これから巻き起こされる惨劇を想い、ガタガタと震える事しか出来なかった。
そしてシャルルはその長い髪を逆巻かせながら、うねる様な不気味な波動をその身から立ち上らせていった。
「信じていたのに……お前達を、信じていたのに〜なんで私を裏切る……裏切るのだ〜〜ッ!!」
正体不明のエネルギーがシャルルより満ち溢れ始めたのを見やり、フロンスは眉間にシワを刻み込みながら苦い表情を見せ始めた。
「何かが起こりそうです……この状況を覆してしまう程の何かが……」
「ああああ〜〜どうして〜……何故なのだお前達〜ナァゼェ〜ッッ!!」
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