第33話 決着
その後、辺境伯になったアルは、隠しダンジョンでレベリングを続けながら、定期的に進行してくる魔族軍を殲滅するという日々を5年ほど続けた。
防衛面では、レベリングで魔改造されていったアルフレッド騎士団が人間界はもちろん魔界からも恐れられるほどの強さを誇るようになり、さらには騎士団の中でもレベリング中毒者で構成される第4部隊(通称:エンドレス)は、一人一人の団員が子爵級悪魔以上の強さを有するようになっており、アルが不在でも小規模であれば魔族軍を殲滅できるようになっていた。
経済面では、隠しダンジョンから産出されるレアドロップとアルの質実剛健な政策により、辺境の地とは思えないほどの発展を遂げていた。
そんなある日、アルが魔族軍との防衛戦で後方から指揮をしていると、隠密のソニックが報告にやって来た。
「アル様ッ!魔王と名乗る幼女が、アル様と一騎討ちで勝敗をつけたいと叫んでおりますがいかがいたしましょう?」
(かれこれ5年以上魔族と戦って分かったことは、魔族と人間は相容れないってことだ。話し合いや交渉は時間の無駄でしかないし、ましてや一騎討ちの申し出も受ける価値もない。だが…。)
「テロリストとは交渉しない。でも、いつも通り、敵将は異空間に誘い込ん個別撃破だ。」
アルの指示を受けたソニックの影が大きく揺らめきだした。
「かしこまりました。テスラ様に伝えます。特技―影移動―」
ソニックは一礼すると姿を影の中に消えていった。
…
アルが異空間で待っていると、幼女の姿をした悪魔が現れた。
『ここはどこじゃ?フム。お主が光魔法使いかえ?』
(流石、魔王を名乗るだけのことはあるな。状況判断が早い。)
「オッスッ!お前が魔王か?俺とタイマンしたいんだってな?」
魔王は、妖艶な笑みを浮かべる。
『ということは、お主が光魔法使いかえ?』
(間接的に俺が光魔法使いだって言ってんのに、確認のためにもう一度聞いてきたな。…確実に光魔法使いを始末したいってことか?)
「そうだ。俺が光魔法使いだ。」
答えた瞬間、魔王の髪が逆立つと同時に、アルの足元に魔法陣が出現する。
『では、死ぬがいいッ!!!』
…ダークゾーン(闇魔法)…
黒いドーム型の闇のオーラが、アルを包み込んだ。
(高位の闇魔法を一瞬で遠隔構築したな。やはり、見た目通り、魔法特化型かな。)
「ラスター、食べて良いぞ。」
アルは動じることなく、懐で休んでいるラスターに声をかけた。
“プルプル(うわ~い♪)プルプル(めちゃめちゃ濃い闇魔法だ~♪)プルプル(特技―マジック・バキューム―)”
ラスターは、アルの肩の上に移動すると口を大きく開くと闇のオーラを吸い込み始めた。
『な、なんなのじゃ?そのスライムは?妾の闇魔法を食いおったぞッ!』
闇のオーラをどんどん吸い込んでいくラスターの姿を魔王は驚愕の表情で眺めていた。
「いや~。ラスターをレベリングに付き合わせてたら、絶対魔法防御だけでなく魔法吸収も覚えちゃってさ~。だから、魔法攻撃じゃなくて物理攻撃の方が良いぞ。それに、その幼女姿だと物理攻撃しにくいから、違う形態で戦った方が良いぞ。」
アルの忠告を無視して、魔王は両手を真上にあげると巨大な魔法陣を展開し始める。
『ま、魔法吸収だと?そ、そんなおとぎ話のような話には、だ、騙されんぞッ!闇の炎ならどうじゃ?これでも、くらえぇぇぇッ!』
…デモンズ・インフェルノ(闇魔法)…
魔王の頭上に巨大な漆黒の炎が生み出され、アルに向けて放たれた。
ちょうど、闇のオーラを吸い込み終わった直後のラスターは嬉しそうにバウンドすると、漆黒の炎を吸い込み始めた。
“プルプル(うわ~い♪)プルプル(凄い御馳走だ~♪)”
美味しそうに漆黒の炎を吸い込むラスターを横目で見ながら、アルは魔王に話しかける。
「無駄だって言ったじゃん。ほれ、魔法はやめて物理で攻撃してこいよ。魔法で強化して物理で攻撃するのがお勧めだぞッ!」
アルの言葉に激昂した魔王の目が黒色化し、身体全体が肥大化を始める。
『おのれぇぇぇぇぇッ!妾にこの姿をさせたことを後悔するなよぉぉぉッ!』
魔王は幼女の姿から、様々な種類の生物の顔が身体中に張り巡らされた姿に変化した。
<キョォエェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェッ!>
甲高い雄叫びと共に、体に張り付いている無数の顔から魔法陣がいくつも展開されていく。
魔王究極闇魔法
…ダーク・ジェノサイダー・ヘル…
血涙のような大量の闇のオーラが産み出され、渦を巻きながら周囲を侵食し始める。
“プルプル(うわ~い♪)プルプル(さっきよりも凄い御馳走だ~♪)”
ラスターは、アルの肩から飛び出して闇のオーラを食べ始める。
「おおッ!スゲェなッ!空間にまで干渉できる闇魔法か?じゃあ、俺もこの前編み出したとっておきのやってみようかな。」
アルは腰に下げていた“天叢雲”を鞘から抜くと、“天叢雲”の刀身から魔法文字が浮かび上がった。
オリジナル聖剣究極奥義
…エスディジーズ(SDGs)…
“天叢雲”にエネルギーが集められていく。
「海よ。大地よ。空よ。俺に力をわけてくれぇぇぇぇぇッ!」
膨大なエネルギーがまばゆい光を放ち始める。
「やってやるぜぇッ!」
アルは、膨大なエネルギーを纏った“天叢雲”を横に一閃すると、魔法陣から光のオーラが流れだし魔王の体を包み込んだ。
<キョ…虚ェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェッ!>
光のオーラは、魔王の身体中に張り巡らされた顔を引き剥がしながら浄化していく。
「おおッ!だいぶスッキリしたじゃんッ!」
顔が引き剥がされ全身タイツ状態になった魔王の姿をみてアルが素直な感想を述べると、魔王が力なく項垂れる。
<わ、妾が長年蓄えた復讐と怨嗟の結晶が……。>
アルは魔王に近づき手を差し伸べる。
「そんな不燃ゴミを溜め込むから時代に乗り遅れるんだぜ。形はどうでも良いけど、ちゃんと循環していくもんじゃねぇと続けかねぇぞ。」
魔王は、差し伸べられた手をじっと見つめた。
<わ、妾は間違っておったのか?>
アルは目を細めながら答える。
「わかんねぇけど、そうなんじゃねぇの?」
魔王は幼女の姿に戻ると上目遣いでアルに尋ねる。
<わ、妾を許してくれるのかえ?>
アルは首を横に振る。
「許す許さない以前の問題だろ?」
魔王はアルの手を掴むと、大粒の涙を流した。
<ありがとう。感謝する……。もう二度と人間界には手を出さないと約束する。>
アルは、握りしめた手に光のオーラを流すと魔法陣を展開し始めた。
「なに勘違いしてるんだ?人間と悪魔なんて共存出来ねぇってことは身をもって分かってんだよ。こうやって和解しても後ろから襲ってきたり、自爆攻撃してくるんだろ?もう騙されねぇからなッ!くたばりやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」
…セイクリッド・エレクトリッガー(光魔法)…
光のオーラが白い電撃となって、アルの体を伝って魔王の体に流れ込む。
『うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』
「うははッ!光魔法使いと魔王との力比べと洒落込もうじゃねぇかッ!俺もお前と同じで、ここで決着つけたかったんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!いっくぜぇぇぇッ!」
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