第32話【王女視点4】
アルの捜索を開始して、しばらく経ったある日、ウッドポッシュ王国王族御用達の商人から有力な情報を得ることができた。
何でも、隣国にある魔族領に接している街の名前が“シャイニング・アルフレッド・タウン”に変わったというのだ。
「街の名前と変更時期から間違いなくアルが絡んでいるわね。光魔法使いとしての責務を果たすために魔族領に接する最前線で戦っているのね。フフ。楽しみに待っていなさい。可愛い幼馴染みの婚約者が会いに行ってあげるんだからッ!そして、もう一度はじめからやり直すわよッ!」
…
隣国の辺境の街“シャイニング・アルフレッド・タウン”に辿り着いた私は、ウッドポッシュ王国の王女の肩書きを使って何とか領主である辺境伯との面会申請を受け付けてもらうことができた。
「”アルの婚約者”と言って申請したら、偽称罪だと衛兵達に囲まれたわ…。ウッドポッシュ王家の短剣を見せなければ、確実に捕まっていたわね…。どうなっているのよ…。」
そして、申請をしてから三日目の朝に、ようやく領主館から連絡があった。
急いで領主館に行き、案内された部屋に入ると見覚えのある男がソファに座っていた。
「…ッ…通商大臣ッ!どうして、あなたがここにッ!?アルはどこにいるの?」
通商大臣は、呆れた表情で首を横に振った。
「私は、もうウッドポッシュ王国の通商大臣ではありません。“シャイニング・アルフレッド・タウン”の領主代行で、アル様がこの世界の王になるためのお手伝いをするお節介やきの爺です。貴女がアル様に行った今までの仕打ちを考えれば、門前払いしても足りないのですが、滅びる寸前とはいえ隣国の王族を門前払いしたとあってはアル様の評判に傷が付きますから、仕方なくここまで招き入れたのですよ。」
通商大臣の言葉に、体が沸騰するほどの怒りを覚えた。
「チィッ!耄碌ジジィの言葉を聞く気は無いわッ!早く、アルを出しなさいッ!!………これは”王女としての命令”ですッ!」
呆れた表情から侮蔑の表情に変わった通商大臣は話を続ける。
「貴女がここに来たと伝えたときのアル様の台詞を一言一句お教えいたしましょう。
“???婚約者???…おおッ!思い出した!あのモラハラあばずれ女か~!ゲェ~。思い出したら気持ち悪くなってきたぜ。親父さんが街に変な名前を付けたからバレたんじゃない?顔もみたくないから、適当に追い返しておいてくれ。な~んの関係もない赤の他人だからな。百害あって一利なしだ。くわばらくわばら。”
だそうです。貴女は、未だにアル様の婚約者を名乗っていますが、その虚しい肩書きでさえ貴女はゴミ同然に投げ捨てたのです。言葉だけ…表面だけ…の反省をしただけでは、人の心は動かせません。もうお分かりいただけましたか?穏便に帰れるうちに帰った方が良いですよ。ここはアル様の城ですから、アル様に長年に渡り無体を働いた輩がいると他の者知ったら、ただでは済みませんよ。ここには、光の精霊様もいますし。」
(モラハラあばずれ女…!?なんて下品な言葉を使うのッ!?)
「アルがそんなこと言うわけがないッ!昔からアルは、私の言うことはなんでも聞いてきたのよッ!私達には、思い出や絆があるのよッ!」
!!!バタンッ!!!
「親父さ~ん、俺のオヤツのシュークリームのおかわりどこに置いた~?ラスターが俺の分、食べちゃったんだよ~。」
突然、部屋の扉が開いたと思うと、背後から昔から聞き慣れた声が聞こえた。
振り返るとアルが扉から顔を出していた。
「ア、ア…ル……」
声をかけようとすると、アルが私の顔を見るなり叫び出した。
「ゲェェェェェェェッ!!!!!!!!!!モラハラあばずれ女ッ!まだ帰ってなかったのか~?早く帰れよッ!親父さん。ソイツ、頭超おかしいから戯れ言につき合う必要ないぞ。そこのサリバンに頼んで、ウッドポッシュ王国に追い返しても全然良いから。そんで、シュークリームどこ?」
通商大臣は、今まで見たことのない輝く笑顔で答える。
「調理場の冷蔵庫の奥です。」
「サンキュ~。じゃあ、頑張ってな~。」
!!!バタンッ!!!
気づくとアルの姿は消えていた。
通商大臣は、残念なものを見るような表情で私に告げた。
「もうお分かりいただけましたか?貴女の価値は、アル様にとってシュークリーム以下なのですよ。いや、ゴキ○リ並に嫌われてますな。フム。もう良いでしょう…。それでは、サリバン殿、お願いできますかな?」
部屋の隅にいたメイドが優雅に一礼すると、私の視界が暗転した。
「ア、アル…ど…う…し…て……?」
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